ストーカーvsストーカー頂上決戦『ミッドナイトFM』

あなたの耳に語りかける声だけの存在であるラジオパーソナリティは、なぜかとても親密に感じるのですよね。TV番組は作りこんだ感じやセットの豪華さ、非現実感、視聴率とりに行ってる感じ、露骨な広告宣伝ステマ(?)やスタッフの作り笑い声、演出…、それは受動的につくりものを観てる気分になるわけで。それにひきかえラジオは“素”みたいなんですよね。出演者のTVでは見せないような“素”の部分を出してるみたいに聞こえるし、それだけに近い、というか自分の心に結構ダイレクトにくる、ように感じる。とりわけ声だけだからどんな顔してどんな表情で、どんな仕草で…って頭の中にイマジネーションひろがる→妄想→自分だけに話しかけてる感→それゆえにエラいストーカーが出現しちゃうわけですが…というのがこの映画。
…ってたしかイーストウッドの映画でラジオDJがストーカー女にエラい目にあわされる、ってのがあったよね。というわけで、今作は色々な映画からの引用や影響を受けて出来てるようであります。超わかりやすい、というか一番露骨なのは(というか隠してもないけどね)『タクシー・ドライバー』。ほかにもいろんな映画のタイトルが出てきますよ(『今夜はトーク・ハード』とか、『ポンヌフの恋人』とか)、なぜなら、主人公は映画を語りながら映画音楽をかける人気FM番組のDJだからなのです。それにしても、ちょっと高飛車というか自信家でファンからの手紙をストンとゴミ箱に直行させたりして、ちょっといけすかない?というか共感しにくい感じ。スタジオ見学にきてた明らかに挙動がアレな感じの男性への率直な嫌悪感の表し方とか(まあ気持ちはわかるけどね)。このキモオタな彼があまりに不自然な配置なんですよ。…けど、結構早い段階で、もうひとりの凶暴なキモオタ・ストーカーが、主人公を脅迫する際に出される番組に関する超絶マニアックなクイズミッションを乗り越えるために配置されておることがわかりますよ。ここからは娘を人質にとられた主人公と凶暴キモオタ・ストーカーの対決構造でもあるんだけど、裏の対立構造は奥手なキモオタ・ストーカーvs行動派凶暴キモオタ・ストーカーの闘いなのです。
この凶暴野郎は完全なサイコで、『オールド・ボーイ』のユ・ジテの気持ち悪い演技はなかなかよかったですよ。彼をカーチェイスで追いかける主人公。そこで古風な暴走族が…これは『AKIRA』の影響がちょっとあるとか。なるほど。そういう引用も楽しめるとなお面白いな。ただ、奥手なキモオタ(マ・ドンソク)の配置は相当ご都合すぎます。ただ、キモオタvsサイコなキモオタのオタ対決はかなりおもしろくて、この画が撮りたかったんだな!と思いました。声出して笑ったものな。
結構ハラハラして飽きないし、いろんな映画へのオマージュ、子役ちゃんの熱演も楽しめました。あと『息もできない』や『生き残るための3つの取引』に出ていた渡辺いっけい似のチョン・マンシクの出演もうれしかった。安定のクオリティ。でもサイコ野郎のリクエスト通りの曲をかけなきゃ娘たちの面倒を見に来てくれてた妹が殺される!と『タクシー・ドライバー』の曲をかけてたのに、事情を知らないマンシク*1がいきなり全然違う曲(『スティング』の曲)をかけるとこはあまりの曲調の違いにコケそうになったけどね。しかも妹本当に殺されるし…。
『ミッドナイトFM』(2010/韓国)監督:キム・サンマン  出演:スエ、ユ・ジテ、 マ・ドンソク、チョン・マンシク
http://midnightfm-jp.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD20825/index.html

しかし『タクシー・ドライバー』は危険な映画すぎます。影響あたえすぎじゃろうよ。危険映画指定されるべきかもね(超誉めてる)

*1:プロデューサー役なのです