英国の空気と詩情『ジェーン・エア』

シャーロット・ブロンテの原作。1847年の刊行以来なんと18回目の映画化という『ジェーン・エア』を観ましたよ。原作は多分未読(最近記憶があやふや)。
ジェーン・エアは幼い頃に両親を亡くし、叔母に引き取られるが虐げられ、結局、教育施設ローウッドへと送られる。そこでも厳しい生活を強いられるも、成長し、教養も身に着けたジェーンはロチェスター家の家庭教師(ガヴァネス)として雇われる。不器用でぶっきらぼうながらも、どこか自分と共通する部分を感じさせる当主のロチェスターからの求愛に応え、結婚しようとした矢先、ロチェスターには狂える妻がいたことが分かる。なんとジェーンもいた館の一室に厳重に閉じ込めていたのであった。ショックをうけたジェーンは館を出るのだが…
静謐さをたたえた映像がうつくしい。電気のない時代の暗さや影がしっかり再現されている。イギリスの低い空に垂れこめる雲がさらに薄暗さを増す。嵐、風、凍えるような寒さ。基調となるのは曇り空や荒天…それだけに偶の青空や小川のさらさらと流れる穏やかさが映える。厳しい環境のなかで、寄り添い、肌のあたたかさを感じることで救われるのではないか、と一縷の望みをいだく。それはロチェスターがジェーンに抱いた感情のように。狂える妻という存在を密かに隠し続けている苦悩するロチェスターにとっては、自分と共振してくれるような性質を持ち、なおかつ気高く強い意志をもつジェーンは一筋の光、太陽のようにあたためてくれる存在。
重厚な家具等が19世紀のイギリスの空気を再現するお膳立てをし、さらにその石造りの寒そうで、つめたそうで、薄暗い部屋の照らすキャンドルの炎に照らされる人々の表情がさらに当時の空気の再現度を増す。これって大事よな。暗鬱たる、苦悩する主人公らの表情がさらにリアリティを増す。
原作では男前ではないらしいロチェスターが、マイケル・ファスベンダーでこれはもう否定しがたく色男なり。絵になるのですよな。ミア・ワシコウスカも同様で、どちらも絵になる苦悩を秘めた二人なのです。ミアちゃんはおとなしく質素ながらも芯の強さを感じさせるジェーンをよく演じてたし、うつくしい鎖骨も堪能できました。主役二人の衣装や着こなしもステキでした(あのウエディングドレスは言うに及ばず、地味な衣装もよいのです)。長い原作を詰め込みすぎず、それでも最後おだやかな境地に達するハッピーエンドが気持ち良いメロドラマ。やっぱり古臭いっちゃ古臭いんだけど、その世界を堪能するのもいいじゃない、という感じ。後世に影響を与えたある種の原型的物語。古い英語の堅い言い回しとかもよかったです。英国好きの方はぜひに。
ジェーン・エア』(2011/イギリス=アメリカ)監督:キャリー・ジョージ・フクナガ 出演:ミア・ワシコウスカマイケル・ファスベンダージュディ・デンチジェイミー・ベル
http://janeeyre.gaga.ne.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD20677/index.html

ジェイミー・ベルの髭面のとってつけた感。
ジェイミー・ベル演じる牧師の妹たち役がまた、すばらしいイギリス家庭教師顔。しかもメロドラマ的物語に憧れている、という設定も完璧。いつの世、どの世界にも物語に憧れる女子たちがいるのです。