俺の団地(シマ)を荒らすヤツは許さねぇ『アタック・ザ・ブロック』

イギリスは根強い階級社会と言われてますね。そんな階級社会の“下層”ともいえる少年たちが主人公。ラップ的な音楽に悪党きどりのニックネーム。夜道を一人歩く女性を脅しつけ強盗。まったく共感できない不良少年ども。それがガイ・フォークス・デイの花火が上がり続ける夜、たまさか空から降ってきたナゾの生命体ととっくみあいのケンカをしてトドメをさしたことからエラいことになるわけです。
主人公の不良少年リーダーのモーゼスがよかったですね。すわエイリアン!対抗しなきゃ、武器とってこい!の短いシークエンスで仲間の少年たちが武器を取りに帰ってすぐ出かけようとすると、家族に「また出かけんの!」みたいに言われてる場面をぽんぽんぽんと繋いで、最後にモーゼスが自分家のドアをパタンと閉めるカットだけしか見せない。これだけで彼が同じ団地少年の仲間のなかでもとりわけ厳しい環境にいるのかも、と思わせる、そんな演出がうまい。
そういう階級社会の厳しさやしんどさ、社会の抱える矛盾*1もわざとらしくなく盛り込みながら、ニック・フロストとウィードでラリってるひょろひょろ青年やエレベーターのうまい使い方*2など、コメディなところもきちんとあって緩急ついてる。
モンスターをあの造形にしたのは予算的なアレなんだろうな、と思いましたが思い切って“まっくろくろすけ”にしたのはよかったかも。モンスターなのに映像的に見栄えがチャチなのは興ざめしてしまうから、姿が見えないほうがおそろしさ増すやん、という法則を使ったのはよかったかな。歯を光らせるのもアイディアだな、と思った。しかし毛むくじゃらとはあまりに地上のアニマルとかイエティ的UMAっぽすぎたけどもな…
あとは団地をフィーチャーしたのもよかった。こういう閉鎖空間でエイリアンと対峙する、といえば『スカイライン』もそうだったな、とか思い出した。劇空間を限定するのは予算的なアレかもしれないけどね。団地の廊下の電気がパパパッとついて、一定時間で順次パパパッと消えていく、というのも効果的でありました。あのシステムは節電仕様でイギリスの団地では当たりまえなのかな。アレ怖い。
物語の最初の方、兄貴分からお前も中途半端な不良じゃなくて、もういっぱしの「子分」にしてやるぜ、とコカインを売りさばくようにまかせられた瞬間のクールさを保とうとしつつ、嬉しさをかみ殺すモーゼスの表情とか、お前昇格したんだな、と仲間に祝福されて照れるモーゼス…このあたりは観ながらちょっと複雑な気持ちになる。でも孤独なモーゼス少年はこんな世界で生きていかざるをえないから、この世界で一人前と認められる、というのが自分を認められる、ということにつながるんだろうな、と思える。だからこそ、ラストでそういう“ワル”とは違う世界から承認されたことを感じたモーゼスのふと見せる笑顔の自然さにちょっとグッときた。短い時間でたたみかけ、ダレさせず、しかもコメディとテンポと脅かしと情感をもりこんだ佳品だと思いましたよ。がんばれ少年。ていうかアレで15歳の設定って、や、イギリスの少年はやはり大人びてますな…
アタック・ザ・ブロック(2011/イギリス)監督:ジョー・コーニッシュ 出演:ジョン・ボヤーガ、ジョディ・ウィッテカー、ルーク・トレッダウェイ、ニック・フロスト、ジャメイン・ハンター
http://attacktheblock.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD21546/index.html

*1:少年が恋人がアフリカで赤十字活動をしている看護師の女性に、アフリカじゃなくてイギリスのこどもを救ってくれよ、とサラっというところとか

*2:繰り返しの効果ね