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ありふれた怪物の誕生『少年は残酷な弓を射る』

不穏な予兆に満ちた作品。そしてこれは、あからさまに、最初から、とある男の子が悪の資質を発現しまくる映画であるとわかる。少年のふてぶてしいような、いかにも悪だくみしたような表情と、彼の資質に気付き、またその“ある意志”が自分に向けられていることを意識して戦慄しまくってる母エヴァティルダ・スウィントン)それに気づかないお気楽ご気楽な夫(ジョン・C・ライリー)。でもジョン・C・ライリーは前にみた『おとなのけんか』のイメージそのまんまだったなぁ。なぜ、ライリーがティルダ・スウィントンと夫婦やねんというつっこみは、キャスティングを知った段階で思ってたので、まぁ、そういうものだと思って観始めたのでした。
最初は過去と現在がカットバックやらでつながれてて時が行きつ戻りつ、となってるのだけど当然のごとく説明はない。が、これまた当然のごとく、観ていくうちに段々わかるようになっている。しかも親切設計でティルダさんの髪型がステキなショートカットか否かですぐに判別できるようになってます。
ケヴィン少年は幼いころからすでに完全なる「他者」として存在しています。まさに怪物。なに考えてるんだかわからぬ。手のひらに収まらぬ不気味な存在。母は自らの胎内で育て、肉体的痛みを伴って子を産み落とすわけだけど、文字通りへその緒でつながっていた子どもとはどこか一心同体というか自らの延長のような、そんな感じではないだろうか。へその緒を切った瞬間からいかに子どもと別れ、子離れして、子を一個人と認め、育てていく過程が教育なんだろうな(想像)と思ったりする。
そういう意味では劇中の少年は最初からあまりにも他者すぎて、母は不気味でしようがない。でも切れぬ紐帯。ケヴィン少年については、ちびっこの頃のほうがおそろしくって、母を困らせるためにいつまでも“わざと”粗相をしつづけて、いつまでもオムツをつけてる。ロクに口をきくこともせず、耳に障害があるのかと心配させる。やぶにらみの目つきだけど父には媚びをうる。ぞぉっとしましたね、ぞぉっと。だって、自分だったら「おかあさんといっしょ」とかを見て、ワクワクドキドキしていたような年頃のこどもが、アレだよ。素でおそろしい。それだけに成長した少年はいかにも智慧がついた“悪そう”感をにじませる表情や演技で、ちょっと“悪”そのまんますぎるやん、と思ったのです。それに懐かしいチビTというのかピタTというのか、昔々に“フェミ男”なんていって石田一成とかがしてたあのファッション、あれを思い出しちゃってね。
ティルダ・スウィントンの演技はすばらしかった。過去のカチッと決めたショートカットの彼女は、あがいている。うまくいくよう、何とかしたい、でも自分を曲げずに、しっかりして…公私ともにスーパーウーマン的にいろいろなことをすべて自分の責任においてきちんとしようと努めている。でもばさばさの伸ばしっぱなしの髪の今の彼女は、事象を認めること、受け止めることを主としているようです。あきらめ?とは違うのかな、彼女が好んで聴いていた三味線やらの音から連想されるような日本…寺社…禅…さとり?みたいな?かつてのブルジョアな感じの彼女*1夫が愛用していたレッド・ツェッペリンのバンドTシャツを着て、そのにおいに埋もれようとする。過去に大切であったものの価値をうしなって改めて気づきその思い出を大切に抱きしめることと、そして、否応なくケヴィンの“母親”である自分、というものを認知しはじめたのかもしれないね、いまさら…だけど。
少年は親やオトナをなめてるのよな。それは思春期のころの自分にもあったかもしれない感覚。自分のほうがモノが見えてるような、感覚が鋭敏なような、そんな尖りきった先端をいってるような気分。少年はコトを起こし、収監されて、歳をとり*2、段々丸くなってくる、わからなくなってくる、どうして自分はそこまで執着し、コトをおこしたのか?はてな
多用される赤のイメージ。編集も音楽*3もたいそうセンスがいいし、直接な残酷描写はないけれど、人の悪意*4をほのかに匂わせる演出もうまい。なにより女性が子を産むことの神秘のダークサイド(はたして生まれてくる子は怪物であるか否か問題)を描いていて、人間の本能的な恐怖の部分を刺激する、と感じたのです。エヴァという名前も象徴的ですな。にしても、邦題はちょっと語りすぎだな(原題は『We Need to Talk About Kevin』)。
少年は残酷な弓を射る(2011/イギリス)監督:リン・ラムジー 出演:ティルダ・スウィントン、エズラ・ミラー、ジョン・C・ライリー
http://shonen-yumi.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD20388/index.html

エズラ・ミラーのインタビューだよ。近影が映画とは雰囲気ぜんぜんちがう…

http://www.asahi.com/showbiz/movie/TKY201206230173.html

*1:オーガニックとかリネンとかコットンとかそんな感じ

*2:劇中は2年の経過がある

*3:レディヘのジョニー・グリーンウッド

*4:現在のエヴァの同僚の男の怖気立つような一言とか!