『ヘルタースケルター』観たよ

1000円で観られるTOHOの日という好条件もあったので、他者の評が事前情報として入ってくるまえに観てみようと出かけたのでした。原作は連載時に立ち読みで読んでて、その後原作者岡崎さんが不幸な事故にあわれてなかなか単行本が出ないため*1、作品の単行本化を久しく待っていた、というものでした。
岡崎さんは90年代にその存在がサブカルのアイコンになってるようなところもあったけど、自分にとっては『リバーズ・エッジ』『ヘルタースケルター』という90年代“カルチャー”*2における代表的な作品をうみだした人。ふわふわぺらぺらした80年代おわり〜バブルな90年代に、岡崎さんは自分の表現にあからさまに“死”を導き入れた*3。自分たちは老い衰え死んでいくものだ。死や死を思わせるものや物体となってしまった人体=死体を目に見えないところに追いやろうとしていく風潮に対して、いやいや自分も有機体で細胞で構成されて、死んでいく身体持ってるやん、という。世の中の表層を飾ることの欲望や消費のから騒ぎに対しての、身体性の問題。それが先に挙げた2本のマンガに結実してると思う。
ヘルタースケルター』は、自分の身体にメスをいれまくった全身整形女りりこの物語ということになってる。顔を覆う1枚の薄皮、その薄皮の見てくれを皆が“きれーい、かわいい”と思うか否かで人の人生のしあわせ/不幸せは決まるとな。とりわけ女は。で、この世間の“たかだか薄皮一枚の表層”への欲望の空虚な熱狂みたいなのは『リバーズ・エッジ』でも描かれて、この2作には同じキャラが登場するくらいの深いリンクがあるのです。『リバーズ〜』『ヘルター〜』の両作に登場するキャラとは、映画では水原希子演じる梢ちゃん。梢ちゃんが食べては吐いてモデルの不自然なほどやせた体型保ってる、という『リバーズ・エッジ』で描写が映画の中にちゃんとでてきて、あぁ、監督は岡崎さんの作品をとても好きで、そこらへん全部入れたいんだな、と思った。
でも。でもですよ、映画とマンガは違うのな。映画を観てるときから「おはなしの筋はほぼ原作まんまだな」と思ってたけど、マンガをあらためて読み直したらセリフもほぼ、本当にほぼ一緒。いや、でもマンガの場合は、コマ割りとか、セリフを吹きだしにして配置するあんばいとか、地の分を文章で配置するあんばいとか、余白とか背景とかタッチとか、そういうのコミで作品だから、それを実写にアレンジを加えずやっちゃうのは違うでしょ…と。映画のオープニングも原作マンガ開いてすぐ載っている巻頭言だし…で、全体にひずみまくってるんですが、とりわけそのひずみが体現されてたのが、りりこをジョーカー/切り札に使おうとする検事を演じてた大森南朋さんでしたね。とにかく全編あれれ?という感じであり続けた。不自然を通り越してひずみまくってるというか。あの実写にするとヘンテコなセリフをマジメに言わされてる画がなんともアレすぎて(コーヒーを「漆黒の闇がとけたようだ」とか、「ヘルタースケルター、しっちゃかめっちゃかだ」とか枚挙にいとまがない…えぇ、はい、ほとんどマンガどおりのセリフなんだけど、でもそれは原作マンガでは成立するものなのな)そのうち大森さんが下手に見えてきたっていう。
あと、マンガでは、検事とりりこはとてもよく似ているけれど、おなじものの光と影というか白と黒という現れ方をしたきょうだいのように描かれるのがとても重要だった。検事の男と主人公“りりこ”とは奇妙な感応をしているのですよ…それが映画では検事は単なる気取ったヘンテコなディテクティブだったのがなぁ。そんで狂言回しの役までやってるから、更にムリが…。ラストの羽のイメージとかも、原作では意味があったのだけど、あぁ、そうファッションとして使うのな、という感じで。
ただ、沢尻エリカさんはよかったですよ。最初はあのわざとらしい、演技してますよ、という感じがあからさまなセリフ回し*4に「あぁ、これまでの彼女の演技でもよくあった、わざとらしい感じか」と思ったけど、そのうち気にならなくなってくるほどりりこぽくなってきたし、顔やスタイルもうつくしかったです、“りりこ”という怪物を演じても負けないほどに。こどものように泣く演技もよかったし。あとは窪塚さんがすばらしかったね。原作では単なるつまんないぼっちゃんだったのが、本当にゲスい感じが増しててよかった。マネージャー役が原作では23歳設定だったので寺島しのぶさんにはアレ?て感じになったなぁ。で、彼女の彼氏が年下のヒモ設定になってて、それが綾野剛さんというのもなんかムリが…えぇ、はい、原作に拘泥しちゃいけないんでしょうけど。ただ、提携企業だから、とはいえきちんと実存のyahooのサイトや実在の雑誌や企業を使ってたのはよかったよ。微妙に名前変えたりしてるのをみると興ざめだからね。
実人生との二重写し的な意味でいえば、ミッキー・ロークにとっての『レスラー』のような作品になりえたと思ったんですよね…で、今作は沢尻エリカにとっての『レスラー』的な作品になったかというと…というわけでちょっと残念だったのですよ。
ヘルタースケルター』(2012/日本)監督:蜷川実花 出演:沢尻エリカ桃井かおり寺島しのぶ大森南朋綾野剛窪塚洋介新井浩文ほか
http://hs-movie.com/index.html
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD20727/index.html

*1:事故のため単行本化する前に岡崎さんが手を入れるという通常の手順ができなかったため

*2:あえてカルチャーって語彙をつかいたい

*3:フリッパーズとかもそうだろうな

*4:仲間由紀恵にも感じるタイプの