『テイク・ディス・ワルツ』

予備知識なしにみにいって、あぁ、こういう映画なのか、とちょっと意外に思った。
ライターの仕事をしている主人公女性マーゴ。仕事のために訪れた外国で運命の出会い…夫は優しいし、彼となら安心な家庭生活を送っていける、でもなにかがたりない気がしている→運命の出会いの相手はすぐ斜め向かいにたまたま住んでた→なんとなく彼との邂逅を楽しみにしたりお互いに待ち伏せしたり→気づかない夫(セス・ローゲン)→このやさしい夫は裏切れない、でも欠けてるピースを埋めてくれるのはあの彼かも→でもだめ→障害があると恋は燃え上がるなー…
これってハーレクインか昼ドラみたいですね。たしかにそのレベルに堕するスレスレだけど、美しい色彩にあふれた映像、ミシェル・ウィリアムズのかわいい衣装、夫を演じるセス・ローゲンのぴったりはまりすぎている鈍感で大味でナイスガイなんだけど…なチキン料理専門のレシピ研究家の大味な感じ、またその二人の友達夫婦的な自然な演技や会話、シチュエーション、音楽などで、映画としてかたちになっている。ミシェル・ウィリアムズは本当にうまい。そしてあの結婚してしばらく経った女性感をただよわせる肉体の感じもちょうどいいんですよね(ちょうどいい、としか言いようがない)。アドリブがかなり多そうな夫婦のシーンはすごかったですね。電話で仕事の話をしている夫にちょっかいをかけ続ける妻、とかちょっとした会話の勢いや会話でお互いの温度差が現れてしまった瞬間の気まずさを、それを取り繕おうとする感じや…観ていてキリキリしそうです。既婚者はなおさらでしょうが、そうでなくとも親子兄弟など家庭内でそういう瞬間、あるよな、と。とりわけレストランのシーンね。セス・ローゲンの鈍さがすばらしい。その彼に対してミシェル・ウィリアムズが浮かべるぼんやりと物足りない表情。気まずさピークの瞬間でした。
音楽の使い方が最高のポイントがあって、あらためて『ラジオスターの悲劇』はすさまじい名曲だな、と感じましたよ。この曲が流れる中アトラクションに乗ってるときのふたりの表情と照明効果のキラキラ高揚感。そして音楽が止まり、照明が落ちてくたびれたアトラクションが蛍光灯のもとにさらされて、ふたりがとぼとぼと乗り物から降りるところ、とか。そしてこの歌詞はこのシーンだけじゃなくてそののちのストーリーにもリンクしてるしね。ヴィデオの登場でラジオスターは殺されたよ、単調で“つまらない繰り返し”な現実の前に幻想のようにそれまでキラキラしてたものが急に色あせてしまったよ…
そして、マーゴはどんな選択をするのか。夫は?彼は?それは観てみてほしいな。ただ、ラスト手前、アルコール中毒の元義姉から言われたひとこと。これって改めて言われるまでもなく当たり前のことなのに、いい大人になっても、自分のことだとわからない。いつまでも本当の自分や本当のしあわせがあると求めてしまうのか、と、とにかく苦さのある映画でした。でも、『ブルーバレンタイン』のように苦いばかりでなくて、きれいな色調補正の効いたかわいらし画面ゆえ、寓話っぽさも感じさせる作品でしたよ。
テイク・ディス・ワルツ(2011/アメリカ)監督:サラ・ポーリー 出演:ミシェル・ウィリアムズセス・ローゲン、ルーク・カービイ、サラ・シルヴァーマンほか
http://takethiswaltz.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD21809/index.html


※プールのシーンにはいろいろとおどろきました。