天使はたしかに存在しているのです『最強のふたり』

映画の日とはいえ、ここまで混むとは。劇場ももっと大きいハコを割り当ててもよかったのではないかな、と思うほどの入りの『最強のふたり』初日に観ました。
ハリウッドの映画作法になれていると、三幕構成が当たり前になってて、意識しないうちにそういうものを期待しているところがある。序盤での物語のお膳立てがあり、続いて障害や葛藤が生じる、そういった困難を乗り越えての大団円にむけてのクライマックス。ただ、先日フランス映画未公開傑作選でシャブロルを観たときも感じたけど、そういう文法を無視した映画もあるんですね。それがヨーロッパとりわけフランスぽい、というイメージがある。そういう意味では今作もきわめてフランス映画っぽく、“最強のふたり”の間に中盤くらいには起こるのかな、と思ってた断絶や行き違い、齟齬みたいなものは生じないままにドラマはスルスルっとすすむ。だから終始笑って観られて*1、それで穏やかに終わるのですよな。きっともっと感動物語や涙を流させるようなお話にできただろうに、そうはしない。それがとても心地よい。
キャストの魅力がすばらしくて、このキャスティングの成功が今作をとても良いものにしている。主演のふたり、首から下が付随の大富豪フィリップを演じるフランソワ・クリュゼのいい笑顔、貧しい黒人青年ドリスを演じるオマール・シー*2のナチュラル極まりないステキ演技。素直に自分の思うままのことをはっきり言い、ぶつくさ言いながらも弱った者を見捨てておけない優しさを発揮して、気難しいフィリップの心にすぅっと簡単にタッチすることができるドリスはまるで天使だな、と思ってました。天上界と地上の民の間の媒介者たる天使。ドリスは障害ゆえどこか壁を作ってこもっているフィリップと、この世界の間をつなぐ媒介者たる天使のような役回りみたい。あの屈託ない笑顔と、自らの欲求や希望に素直に振舞うことが周囲へ好影響をあたえるありようは、天使的じゃん、と。…まったく個人的な話ですが、自分にはドリスみたいなあぁいう才能というか資質がないので*3、ドリスを見ていてちょっとうらやましくなるのです。特に最後、キューピッドの役割をはたして、恋する女性との“間を取り持つ”ドリスが見せる笑顔のまさに天使っぷりったら。自分はいろいろ忖度して、考えて、一歩がなかなか踏み出せなかったり、一歩踏み出してもうまく振舞えない人間であり続けてきたので…*4
フィリップのワガママ娘の存在がいつのまにかどっか行ってしまって、あれ?って思うけど、まぁ映画内2時間ですべての問題ごとが解決するわけじゃないし(吉本新喜劇なら解決するけどね)、それもまた大陸っぽい映画だな、と。それにしてもフランス映画っぽいな、というのは恋!愛!それが重要!って点ですね。みんな誰かに恋をして、それで生き生きする。まったくフランス人てやつはよー(だいぶん偏った意見です、そして決して貶してません)。
それにしてもオマール・シーはめちゃめちゃスタイルよくてかっこよかったな。あのEW&Fの曲にあわせたダンス/見てる人も楽しくなるような、そして一緒に踊りたくなり幸せになりそうなダンスを踊れる彼だから、天使の役ができたのでしょうよ*5
最強のふたり(2011/フランス)監督:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ 出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、 アンヌ・ル・ニ、 オドレイ・フルーロ
http://saikyo-2.gaga.ne.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD21718/index.html

*1:下ネタ多めだけど下劣ではない絶妙さ

*2:コメディアンとしても活躍してるそうですね

*3:自分は映画内でドリスが辞めた後にやってきた介護士の男性みたいなタイプだと思う…ふぅ

*4:昔からこんな性質で、これがコンプレックスでもあり続けた

*5:それだけにラストの実物映像はなくてもよかったかな、と思ったりもした