キチガイによる極才色の愛の物語絵巻『気狂いピエロの決闘』

すばらしい。これは傑作だな、と思った。冒頭からラストまで予想を上回る展開がめくるめく感じでぶわぁっと目の前に繰り広げられていく。ヴィジュアルもすばらしいし、あたまから最後まで、きちんとサーカスの物語なのがよいな。移動するサーカス。他人同士の寄せ集まりなのに、どこかファミリーの結束をもつサーカス。なのに、その中にとある異分子/純粋ゆえに狂気へ転換する可能性の高い異分子が入り込み、できあがっていたファミリーのパワーバランスが崩れ、ドえらい崩壊が起こるのですよ…その寓話性や歴史をからめた展開は、とくに冒頭はクストリッツァの傑作『アンダーグラウンド』も思い起こしました。両作とも内戦が重大な歴史背景だからかな。そんなふうに史実に絡めて夢想のビジョン/悪夢のような、いややっぱり夢のような並行世界を描くのかな、と思ったら、さらに自分の予想の斜め上を行く驚きの展開に目は離せないし、心拍数もあがっていく。『アンダーグラウンド』でも天使の羽をつけた少女がパーティーをする皆のうえをふわりと飛ぶとても印象的なシーンがあったけど、今作でも夢の女は空からあらわれる。ある日、空から、うつくしい女が微笑みかけたら…女性にはいかにも奥手、彼女いない歴=年齢な感じの男は心の奥底まで射抜かれてしまう。それは物語のはじまり、悲劇のはじまり、崩壊の音がきこえる。
美しい女ナタリアはサーカスの看板ピエロ:セルジオの女でありながら、うぶな新入り泣き虫ピエロ:ハビエルにちょっかいをかける。いや、これ彼女はナチュラルにやってるんだろうけど、うぶなセルジオはもうたまらない。彼女はDV男セルジオにひどい暴力を振るわれるのに、そんな彼に惹かれる、という性質だったのな。だけど、ナタリアはバランスを取りたいのかして、絶対安全男子/ハビエル要素も欲しかったのな。夜は乱暴な男に粗暴に扱われたい、昼はやさしい男と安心にすごしたい。
ハビエル役カルロス・アレセスのナイス顔がすばらしい、頭の先からつま先までトータルコーディネートも最高。髪型もこれしかないってやつ。彼女と一緒に出掛けたなんていったらDV男のセルジオにめちゃくちゃな目にあわされる…、って予想通りの展開なんだけど、その暴力がふるってる。セルジオをパンチするゲームの機械において、上からハンマーを振りおろし、ほら!メーターがあがった!テディベアよこせー!ってリーアム・ニーソンがピンクの象!って叫ぶとこ思い出したね。
半殺しの目にあったハビエルが病院から逃げ出す。尻丸出しで逃げ出す。そしてハビエルの元にかえったナタリアのもとに。もうオカシクなってるのだな。どーしてそんな暴力男がいいんだよー、ボクが解放してあげるのにー。復讐だ復讐だ復讐だ、ハビエルをトランペットでめったうち。ハビエルはナイスな尻を丸出しのまま逃げ出し、セルジオは獣医のもとに運び込まれ大変な顔面に…。
ここからもすごい展開つるべうち。ハビエルのビジュアルがものすごいことになっていく女神の天啓をうけての受難場面もいい!あとは映画館に迷い込むハビエルの場面、あれも最高。ハビエルはナタリアへの愛ゆえに狂っちゃって、いや、でも彼女の愛だけを求めてて、それさえ得られれば世界はきっと味方になるだろう、というくらい一途だけど、そんな極端な思考はやっぱり狂気の沙汰。ハビエルが映画館のスクリーンに観るのは、泣き虫クラウンの歌うかなしい歌*1か無念の死を遂げた父からの復讐への教唆か。思いにふけってるのに、「ちょ、そんなところに立ちつくされたらスクリーン見えないんすけど」って!って!ハビエルはキチガイのほうに振れきって走りだす。キチガイピエロが銃をガンガン打ちまくるヴィジュアルもいい。きっと監督は「こんな画撮りたい!」っていう決定的なイメージがあって、それを実写にして繋げていったんだと思う。それくらい優れている。あの時代感の再現も最高。
サーカスの面々がなんだかんだいいつつファミリー要素を保って家族経営のお店をやってたり、それぞれの個性もずっと伏線になっていってるのが案外巧み。そしてラストのワケわからんままナタリアとやっと思いが通じた場面、十字架のスケール感と伏線のききまくったバイク男のアレも最高。最後はスクリーンのピエロたち同様、悲しいだかおもしろいんだかうれしいんだかさみしいんだかやっぱり哀しいんだか、よくわからぬまま圧倒されて涙がでたわ。
気狂いピエロの決闘(2010/スペイン)監督: アレックス・デ・ラ・イグレシア 出演:カルロス・アレセス、アントニオ・デ・ラ・トレ、カロリーナ・バングほか
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD22004/index.html

※カルロス・アレセス演じたハビエルは今年の顔面大賞候補の最有力候補である。
※冒頭のナタふりまわしピエロも、監督はあの画が撮りたかったんだろうな!というくらいヴィジュアルが決まってた。

*1:我を取り戻すきっかけをあたえてくれそうな