『そして友よ、静かに死ね』

渋い。軽薄さはなく、顔をみただけで、この男は命をかけるような修羅場に身をさらしてきた男だとわかる。そうしてこの男は、オールドファッションな考えを強固に信じている。友情を重んじねばならぬ。家族は何があっても守る。しかし、男の友情のほうが、ときとして家族への情を上回ることもあるかもしれぬ。仕事のためなら、冷酷に人を殺すこともある。ただし、利ザヤが大きいからってヤクに手を出すのはいけねぇ。って、日本の任侠というか仁義を重んじる人たちの新旧対立で描かれる要素と共通するな。『アウトレイジ』でもヤクに手を出したものらはイタイ目を見るし、仁義を信じてた北野武演じる主人公はこれまたエライ目にあう。でも日本的な湿度の高い、距離感や温度が高い感じじゃなくて、どこか乾いたテイストがフレンチノワールな感じ*1を横溢させていて、それが、とてもかっこいいけれど、とても悲しい男の世界に浸らせてくれるのです。
主人公のモモンが、幼い頃、父親聞かされてきた教訓を守らず生きてきてしまったためこうなってしまった、という痛切な後悔をしている場面からはじまる。そうして銃を手に、ある建物に向かう…そうして場面は反転し回想がはじまる。この始まりが秀逸。この冒頭の場面は当然ラストにつながるのだけど、このラストに至る物語についての予想を観客に抱かせて、物語に惹きつけられ、でも最初に抱いた予想どおりに進まなかったり予想を超えて進んでいく物語世界にぐんぐん引き寄せられる。
ロマであるモモンが虐げられてきたことがさりげなく描かれ、そんな環境でもモモンのことを差別することなく友達になってくれたセルジュの存在がいかに彼にとって重要か、また、彼が黒い世界に進むことの必然性、などが少ない描写で的確に描かれる。説明描写はすくないけれど、ある対象をクローズアップしたり、さりげない会話が後々の出来事の伏線になっているし、それらの物語に厚みをあたえ、説得力をいや増す俳優陣の顔と演技がすばらしいよ。とりわけ主役のモモン・ヴィダルを演じるジェラール・ランヴァンは男が惚れる男だと思う。彼は成功者となり、あんな豪邸に住むこともできたんだろうと、と思わせる人間力をあふれさせる存在感なのだよな。
回想シーンのフランスの風俗の再現やベタながらアガる音楽の使い方(ジャニス・ジョップリンなど)、ロマのさりげない描きかたや回想と現在の往還の編集、どれもこれも気が利いてる。老いたモモンが、裏切者であり友人セルジュを脅かす存在であるギリシャ人のもとへ行く時の武装の仕方とか、心底おそろしいのだよな。ボディチェックされるから銃などは持ち込めない。そこで彼はクレジットカードの縁を削る。そうして、その鋭い縁で的確に首筋を切りつける…。カタギじゃないのはわかってるけど、口数すくなく落ち着いている彼の見せる瞬発力と少ない力で確実に相手を殺す技術にやはり黒社会の男なのだな、と。それはモモンの漂わせる悲しさでもあり、彼は身にしみついたその性質をいまさら拭い去ることはできない。血や犠牲のうえになりたってきた彼の人生。どんなに悔いてもそれは改められない。
いやぁ、やっぱりまっとうに生きるの一番、だけど、映画でこんな別世界に浸るのはとてもすばらしい体験なのです。いい顔だらけでかっこよくて尺もコンパクトでとてもよかったよ。
そして友よ、静かに死ね(2011/フランス)監督:オリヴィエ・マルシャル 出演:ジェラール・ランヴァン、チェッキー・カリョ、ダニエル・デュバル、ヴァレリア・カヴァッリ
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http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD21715/index.html

*1:なんとなくのイメージ