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自由のために歩き抜け『ウェイバック-脱出6500km-』

ピーター・ウィアー監督作で、ジム・スタージェスエド・ハリスシアーシャ・ローナンコリン・ファレルなど豪華キャストということで気になっていて観に行ってきました。公式サイトを見ても上映館は少ないし、あまり話題にもなってなかったのですが、直球正統派の映画で、物語の説得力を担う過酷な大自然の映像もナショナル・ジオグラフィックが製作だけにかなりの迫力、役者の演技も熱が入っていました。
・ポイント1 スターリンの粛清ハンパじゃない
シベリア送りにするために無から罪を創り出すという行為をするんですよね。スターリンの時代の苛烈さは昔オリガ・モリソヴナの反語法という米原万里さんの小説を読んだときに、その片鱗に触れてこれは恐ろしいものだったんだな、と思ったのでした。権力者となると、保身のために疑心暗鬼になる。敵を見出し、杭が出る前に打つ…っていってもそれは出るつもりもない杭なのにね。主人公ヤヌシュはまさにその犠牲者。ポーランド人であったがために、むりやり思想犯/政治犯に仕立て上げられる。否認すると彼の妻まで拷問にあう…。権力者のもとに力の一極集中することの怖さ。
・ポイント2 大自然の厳しさハンパじゃない
シベリアの極寒、収容所の劣悪な環境、夜盲症、栄養失調。そして逃げ出してからの森での食物確保の困難。ようやっとたどり着いた湖。やぶ蚊は大変だけど、それでも湖のそばを行く道は天国みたいなのですよな。なにより砂漠の過酷さ。水、水、水。水がなければ生きられない。わずかに濡れているドロドロの地べたにはいつくばって舐めるように水分を吸収…。次は山越え。モンゴルを超え、エベレストへの道行きで主人公らが声を上げてよろこぶ。はて?なにを見てそんなに喜んでるの?と思うと、そこには…万里の長城!これには客席もおぉっ、と声がでましたよ。大自然に負けないほどの人工建造物!自分もそのシーンをみたとき、この目で万里の長城を見たい!と強く思いましたよ。
・ポイント3 人を落胆させるのも人を支えるのも人なりけり
役者陣はよかったです。マーク・ストロング演じる収容所の古参が新入りを焚き付けて脱出を夢見させて楽しむっていうのもおもしろかった。どうせ抜け出せない現実、それを血気盛んな若者がムダな努力をするのを見世物のように消費しているのです。あらかじめ挫折で終了するはずの物語…のはずがヤヌシュは困難をものともせず現実の壁を突破する。その彼にくっついて脱出をはかるメンツがそれぞれキャラが様々でよかったです。画家志望や笑わせ屋、チンピラのコリン・ファレルもよかったし、シアーシャちゃんも体当たりで熱演でした。しかしエド・ハリスが重要で、彼がいるから重厚さを保っていたというか背骨のような感じだったな、彼の存在が。
・ポイント4 自由はたやすく手に入らない
この支配からの自由!というのは簡単。それを自分のもとに手繰り寄せ、手に入れるのは、意志と思いが必要であるのですな。ヤヌシュは自分を告発する供述を拷問によってさせられてしまった妻に、どうしても伝えたかった。許すよ、と本人に伝えたい。そのために前に進むことしか考えていない。ヤヌシュは仲間を失い、限界ギリギリの状況を耐え抜いてインドへようよう辿りついたのだけれど、ヤヌシュが過酷な脱出道行きで何度も幻視した自宅へ帰るには、共産主義体制/冷戦体制ゆえに更なる長の年月が必要だったのです。そうしてポーランド共産主義がたおれたのち、老ヤヌシュがやっと妻のもとにたどり着いたラストは静かながら感動的でしたよ。ひたすら歩け、前へむかって歩き抜け、囚われて自由のない人生を生きるくらいなら、自由の中での死を選べ…その直球ストレートな感じがよかったですよ。
※なお、事実にインスパイアされているものの、本質的にはフィクションであるとの位置づけみたいですよ(wiki
ウェイバック-脱出6500km-(2010/アメリカ=UAE=ポーランド)監督:ピーター・ウィアー 出演:ジム・スタージェスエド・ハリスコリン・ファレルマーク・ストロングシアーシャ・ローナンほか
http://wayback.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD21911/index.html