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演劇にとりつかれた男『演劇1』『演劇2』(あるいは「まずは食うこと、それから道徳」)

間違いなく今年必見の一作です。演劇に興味はなくとも、映画や、なんらかのものを創造するコトに興味がある人ならば必見でしょう。6時間弱、引き込まれるように見入った観察映画。
想田監督の観察映画は『精神』を観たことがあったけれど、『精神』とは決定的に異なるのは“平田オリザ”というスターの存在だな。『精神』は一般の人(患者)と医療スタッフがカメラでとらえらえていたけど、今作はスターが主役。…スターというと語弊があるかもしれない。小柄で基本おだやかそうな表情を浮かべるオリザさんだけど、ものすごい引力をもつ星みたいな存在なのです。画面にスターがいるからグイグイ惹きよせられる。引きがすごい。それだけに『精神』のときよりも、編集に意図や意図せざるものかもしれないけどある種のバイアスを感じる。そのバイアスというのは監督のオリザさんへの“共感”だ、と思いました。その“共感”はある種自分も抱いた。や、共感というのはおこがましいので、正確には“圧倒された”、という感じなのだけれども。
平田オリザは演劇に取りつかれてしまってる。演劇が一番おもしろいと思ってる。だから自分の思う一番おもしろいものを実現させ、もっと、もっと!その創造や想像をひろげていくためには、面倒もなにも厭わない。人々が集って作り上げる演劇は経済活動が伴う。金勘定、借金、補助金請求、ギャラ、すべてを管理していく。ギャランティーの交渉もきっちりする。自分の活動をひろげる、認めさせる、押しひろげるためには、あらゆる機会を逃さない。ワークショップもあやしげなところからの講演依頼も、講演会も大学教授としての職務もいかにも政治家然とした市長やら国会議員との接触の機会もすべては機会だから逃さない。つかまえる。認めてもらうには、やり続けるしかないんですよ、と。それも気負いを感じさせずあの小柄な体で一見おだやかな表情ながら、絶対の自信とゆるぎない一本筋のとおった思いがある/演劇が一番おもしろい!
その覚悟…というほど気張った感じはまったくないけど。でも、演劇ためならカネ勘定やら行政やら政治やらなにやらの(自分なら避けたくなるような)面倒もひっくるめて、すべて引き受ける覚悟をあらゆる瞬間に感じる。映画を観ながら「自分は一体何やってんだ」という気持ちになった。なんら覚悟もなく、ただただ日々を辛いしんどい一瞬も楽しみを感じられない、という仕事に一日のほとんどの時間費やして何やってんだ。いますぐにはムリでも近々にこんな自分の生活を改めよう、と思わせられた。オリザさんの事務所に掲げられてたブレヒトの言葉「まずは食うこと それから道徳」を想う。食わねばならぬから、いますぐこの生活は改めらぬけど、いや、きっと改めるよ(なんのことやら読んでいただいてる奇特な方にはわからぬと思いますが。自分への戒めであり誓いでもある)。自分は圧倒されたこういうオリザ力(りょく)に、想田さんは同じクリエーターとして、ものすごく共感しているのだと感じました。
彼の手法が演劇のすべてではない。それはあたりまえ。オリザさんの手法とは対極的な“即興”も間違いなく演劇の大きな魅力の一つだろうしね。でも、演劇に賭けるオリザさんのこういう生き様や演劇の手法もは絶対有りだと思わせられる圧倒的な力を感じた。小さいけどものすごい引力をもつ星のようだと思った。あと膨大なワークショップ等やってるからだろうけど、人に語りかけ、興味を惹くことにものすごい長けている。オリザ先生の授業は本当に受けてみたいと思ったな。難敵中学1年生男子からオトナまで巻き込む力を持つオリザ力(りょく)に生で触れてみたい。映画の中でもあまりのパンチラインの連続にメモ取りたかったくらいであるよ。
『演劇1』『演劇2』(2012/日本)監督:想田和弘 出演:平田オリザ青年団
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