イーストウッドを観よ『人生の特等席』(TROUBLE WITH THE CURVE)

イーストウッドが出ているとあらば、観たい。観なければならない。ということで初日に観に行ってきました。
観てすぐになんとなく連想したのは、高倉健映画みたい、ということ。いや、ロクに健さん映画観ていないのに、なぜか。それは健さん映画と聞いただけでわきたつイメージ。不器用な男、口下手でひとつのことに愚直に取り組むことしかできない昔気質の男。健さんの存在感だけで映画がなりたつような。しかし、完全なるイーストウッド印のアメリカ映画だから、画面の色が違うのです。日本の野球の球場とアメリカのベースボールのスタジアムの違いというか、湿度が全然ちがってカラリと空気が乾燥していそうなアメリカの風土の佇まいや雰囲気などの舞台立ての違い。
奥さんのお墓にいって、墓にむかって声を出して語りかけたあげく「you are my sunshine…」と歌いだし、涙まで浮かべるさまに「えぇっ?」と思わず声に出そうになったほどベタ展開。そう、みんな邦画にありがち、と批判するポイントでもある「セリフで結構説明してまう」映画であったですよ。それだけに劇場の年齢層高めの観客のニーズにもきちんと応えるわかりやすさでした。『グラン・トリノ』とは全然テイストが違うな。
スカウトの俎上にあがっている有望株を演じる生意気そうな自信家の男の子。いかにもアメリカらしい「成功+女にモテモテ」を夢見る少年。バットを大振りに振り回し、ホームラン量産。…でも変化球に弱いってあまりにもベタやん。あと、意外な伏兵がいるわけなのですが…あまりにもご都合ですが、それはもうファンタジーな感じで、観客が望むようにすすむよ(自分のとなりのすこし年配の女性は、溜飲のさがるあるシーンで思わず「わ」と嬉しそうな声を発して手を静かに叩いたくらいだからね)
でも、今作はそんなベタ展開のうえで、不器用なスカウトマン:ガスを演じるイーストウッドの顔や演技を堪能する、というイーストウッドの(一種)アイドル映画だったのですよ。口の悪い不器用で娘への愛情も素直に表せない男。鏡をじぃっと覗き込むイーストウッドの表情、それだけでもう十分ごちそうさま、という。エイミー・アダムスも安定していたけれど、ジャスティン・ティンバーレイクがかなりよかったな。子犬だか小鹿みたいなピュアな感じの瞳を眼差しの奥に秘めて持ってる。だから、エイミー・アダムスに素直に惹かれ、恋に落ち、傷つくところもすぅっと嵌ってる。マシュー・リラードも安定のイヤミな感じがよかった。
あとはおじいさんどもの戯れを味わう意味でもいい映画。ジョン・グッドマンイーストウッドのやり取りは堪らないし、昔ながらのスカウトマン仲間らとの俳優談義での口の悪いながらも気の置けない仲間感も良い。…イーストウッド82歳、朝食にピザの宅配を取る男;シャイなのを隠して娘を食事に誘う男;ベースボールの純粋な音を聞くことができる男;これらを演じて観客に納得させるイーストウッドを観よ、ということである。とにかく、この男を観よ。
『人生の特等席』(2012/アメリカ)監督: ロバート・ロレンツ 出演:クリント・イーストウッドエイミー・アダムスジャスティン・ティンバーレイクジョン・グッドマンロバート・パトリック、マシュー・リラード
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http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD22610/index.html