戦争という地獄『高地戦』

地元でかかりましたので観に行ってきました。
世界史の教科書とかでの「休戦協定が結ばれました」程度の記述しか覚えていない、朝鮮戦争の終結。しかしそこに至るまでの戦争のありようを描いた今作によって、知らなかった歴史の一端を知ることができ、こういうのも映画の持つ大いなる意義のひとつだな、と思った。世界史の教科書だと数行にしかならないことだけど、そこに至るまで「死屍累々」の様はまさに地獄。しかも同じ民族同士の殺し合いは、さらなる地獄でしょう*1。アメリカ南北戦争ボスニア・ヘルツェゴヴィナにしてもアフリカ諸国にしても、内戦は本当に地獄の中の地獄のように思える。しかも朝鮮戦争においては、休戦協定を結ぶ議論が陣地の取り合いになっているため、線引きでモメ、長期化すればするほど犠牲者が増える一方。
戦友との絆の描写は戦争映画の定番だけど(とりわけ新兵のエピソードは他の戦争映画同様グッとくる)、それもキャラ配置がうまくて感情移入させられるし*2、あまりに長期化し、陣地の取り合いがルーティーンなゲームのようになってきたがために生じる、人民軍との物々交換のエピソードや、敵の超絶スナイパー「2秒」*3の存在など、飽きさせない。
プライベート・ライアン』以降の映画であることを感じさせる人体破損描写も結構な度合で迫力がある。「戦争で勝つのは生き残ることだ」「俺たちが闘っているのは、敵じゃなく戦争だ」など、長期化ゆえ日常となってしまった“戦争”についての個の人間としての対処方法を語る言葉に対して、軽々しく理想を述べて抗することなどできないでしょう。そうやって「生き残る」ためになしたことゆえに苦しみ、モルヒネ依存してしまう大尉。彼のことを誰が責められよう。
特筆すべきはやはり戦場の描写。高地/丘に塹壕を掘りひそむ敵を打ち破るため、丘を駆け巡る戦争の迫力ある戦闘シーン。そういえばテレンス・マリックもなんか戦場が舞台の映画撮ってたけど、あれ、本当に牧歌的だったなぁ、とふと思いだすほどにね。最初はダイヤモンドダストがキラキラするほどの寒そうな景色が、夏の描写になり、終わりの見えない戦争の日々がただただ経過するその無為というか惰性で続いていると感じてしまうレベルにまで至るような諦めというか、どうしようもなさが伝わる。
そして待ちに待った休戦協定の報が届くのですが…。さて、ここから、不勉強にして全く知らなかった事実に自分は茫然とする。最後に明かされる、なぜ「ワニ中隊*4」と呼ばれているか、という秘密…、兵士の命は軽い。長大な歴史の1ページにその名を残すこともない者らの死体を俯瞰でとらえるラストに、自分も歴史の1ページに名を残すことはない同じく群衆の一人であるゆえに、茫然としてしまうのでした。
『高地戦』(2011/韓国) 監督:チャン・フン 出演:シン・ハギュン、コ・ス、イ・ジェフン、リュ・スンス、コ・チャンソク、リュ・スンニョン、キム・オクビン
http://www.kouchisen.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD22171/index.html

*1:もちろん別の民族ならいいってわけではない

*2:『ハロー!?ゴースト』のいい顔のタクシードライバー役の人が、いいキャラで出てた

*3:体が倒れてから2秒後に銃声が聞こえるほど遠くから射殺する能力がある、ということ

*4:ワニは卵をたくさん産むが、卵の段階で食べられ、さらに生まれてもすぐ食べられ、結局数匹しか生き残らない、その生き残りのワニのような中隊、の意