大友克洋監修『MEMORIES』(1995)

塚口サンサンシアターは昨年から旧作上映を積極的にされてるのですが、ラインナップがユニークです。デジタル未導入なりにフィルム上映館であることを強みにしようとして挑戦中なのでしょう。昨年も『AKIRA』『ヘドウィグ〜』『パプリカ』など観に行ったのですが、今年の映画館初めはそのサンサンで1週間上映があった『MEMORIES』となりました。短編三本のオムニバスです。
「彼女の想いで」監督 - 森本晃司 脚本・設定 - 今敏 原作- 大友克洋
いまとはなっては、彼女の“正体”は誰しも想像できるほどSFではスタンダードなものですが、今作で“想いで”を紡ぎだす彼女の時代がかった浪漫な感じ…は、SFに懐かしさを導入すると最強なのを示しています。印象派の絵画が現実のヴィジョンになったかのような日傘をさす女。彼女の“想いで”は辛い現実をフィルターで丹念に濾過したものだから、とても魅惑的。彼女はまるでヴァンパイア*1。永遠の生を“想いで”により得たが、孤高、というか結局さみしいのだね。生ある者を取りこむことで“想いで”を延命させることができる。その孤高に惹きつけられ、囚われるか否かの分かれ目、自分だったらどうだろう。彼女の想いでの中で永遠に苦しみの無い生を生きたいだろうか。
「最臭兵器」原作・脚本・キャラクター原案 - 大友克洋 監督 - 岡村天斎
ギャグをもりこんでテンポよく一直線にすすむ軽妙な作品。製薬会社に勤める平凡なサラリーマンが、実験段階の解熱剤だと思って飲んだカプセルが実は、人を絶命させ(もしくは意識不明に追い込む?)、生態系を崩す(花が咲き乱れ、植物は爆発的に繁茂する)“臭い”を発生させるものだった。彼は会社のえらい人に最初に言われたとおり、ひたすら東京を目指す。彼を食い止めんとする国防省。ミサイルや戦車も投入するも、彼の臭いは強力さを増すばかり。おもしろいのは、平凡な彼の体質だかなんだかが、カプセルと相性がよかったってこと。彼は自分が原因とも気づかぬまま東京を目指す。このくだりはヱヴァQのシンジくんばりに、「まわりの人がちゃんと説明してやれよ」と思うけど、説明できるほどの至近距離にも近づけないわけだ。どんどんエスカレートするさまが楽しくて、実写SFにしても短い尺で勢いでやればおもしろそう。たのしい作品、オチもきいてた。
「大砲の街」監督・原作・脚本・キャラクター原案・美術 - 大友克洋 キャラクターデザイン・作画監督 - 小原秀一
みはじめて8分くらいして、「あ、これ長まわしか」と気づいた。カットなしに続けていく実験作。絵柄が大友絵ではないのですが、その寓話的な絵が大砲の街にはあってるかな。長まわしの視点移動で当時の技術の限界か、正直見づらいところもあったけど、おもしろかったし、比喩的、暗喩的でよかった。スチーム出まくりなのもよかったね。そしてラスト〜エンドロールに突入する石野卓球の音楽がのっかるところがものすごくかっこよかった。たまらないほどにね。
今度また『迷宮物語』も限定上映するようで、観に行きたい。

*1:ヴァンパイアの古色蒼然たる貴族の在り様と似ている