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『アルバート氏の人生』

マジメで気配りができ、つまりウェイターの仕事が天職ともいえるほどぴたりとこなせるアルバート・ノッブス。しかし小柄な彼はどこか風変り。人との関わりが浅い。どこか心の奥を見せない。ハンサムとは言い難くルックスもどこか奇妙。彼の抱える秘密とは…
物語のイントロダクションでもすでに分かるとおり、アルバート氏の秘密は、“彼”ではなく“彼女”であること。男性のフリをした女性であること。上流階級の血筋ながら「私生児」であったため里子に出される。実母が生きている間は援助があり、それなりの教育を受けられたが、実母の死とともに困窮する。さらに不幸がかさなり、養母を亡くして孤独になった彼女は、ある日男どもにレイプされてしまう。そして、たまさか見かけたウエイターの求人に合格し、そこから男装し、男としての人生を歩きはじめる。粗野な下品なスラムは耐え難い。品のある世界で堅実に生きていきたいと思ってきた。
ウェイターに従事する中で、チップを毎日集め、大事に貯めて、みつからないように床下に隠し、部屋の施錠も怠らない。そんな彼の夢は自らの店を持ちささやかに事業をすること…それだけだったはずなのに、ある出会いにより、身の丈以上の夢を見始める。それが、彼の時計を刻むがごときルーティーンな日常や堅実で注意深いはずの彼の歯車を狂わせることになる。その出会いとは、アルバートと同じように男装の女性に出会ったこと。塗装職人である彼は、なんと結婚までしていたのであった…自分もそのような「家族」を持つ“普通の”世の中の男性と同じような人生を送れるのかもしれない…!想像もできなかったような夢を見ることは、人の人生を思いがけないほどキラキラと輝かせるけれど、それが実現しなかったとき、また裏切られたとき、思いがけないほどのダメージも与える。それだから人生だし、ドラマも生まれるのだけれどもな。
人生は思う様にならない。計算通りいかない。アルバートはそれまでの人生になかったほどの希望や喜びを、ほんのわずかの時間ながら得ることができた。若い輝かしい女性ヘレン*1との散歩デートや贅沢なコーヒーショップやチョコレート。もしも、もしも、ヘレンとともに小さなお店を切り盛りし、ともに時間をすごすあたたかい家庭が築けたら…!中学生のように夢見る*2アルバート。彼は心の底から“男”になったから、彼女にお金をつぎ込み、結婚を申し込んだのか?
妻を流行病で失った塗装職人ペイジ*3とともに、ペイジの妻の遺した可愛いワンピースドレスを着るシーン。晴れ晴れとした表情でうれしくて駆け出すアルバート。彼は自分の心の底からのよろこびもかなしみも表現せず生きてきた。でも、自分を十全に出したらいいんだよ、というペイジの言葉に生きることのよろこびを控えめながら爆発させている海辺のランニングシーン。生まれながらの生物的な性である“女性らしい服”に身を包み、押し隠してきた感情や想いを解放させるようなシーン。感動的。でも海辺でコロっとこけるアルバート。うん、それはそのまま映画のラストだよね。アルバート氏はささいなことでコロっと死んでしまう。自分の夢は現実にできぬまま。
女性が一人生きていくのが困難な時代。アルバートはひとり生きていくと思っていた。でもついうっかりと夢を見てしまった。可愛らしく、自分のそばに寄り添ってくれる、自分を求め頼ってくれる存在とともに暖かい空間を築けたら…!男性として生きていくことを選択したけれど、男性女性の性別を超えて、ちいさく可愛らしい、けれど弱い存在=女性であるミアちゃんを守って生きていくことを夢想したように思う。そのために必死のアプローチをし、人が相手であるだけに、自分の予想外のことが起こることは、痛手でもあるけど、思いがけないほどの生の喜びも得た、だからあんなふうにおだやかに、満足そうに息絶えたのだろう。そうは思う、でも、それでも…痛い、痛い、観ていて心が苦しくなったよ、アルバート氏…
アルバート氏の人生』(2011/アイルランド監督:ロドリゴ・ガルシア 出演:グレン・クローズミア・ワシコウスカアーロン・ジョンソンジャネット・マクティア
http://albert-movie.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD23039/index.html

グレン・クローズの男装っぷりはすばらしい。映画内のアイルランドの当時のファッションも注目である。
アーロン・ジョンソンはやっぱりすごいイケメンであった。ミアちゃんとは美男美女カップルでしたな。
※劇中のアルバートの妄想シーンがすべてフラグのようで、みていてたまらぬかった。

*1:ミア・ワシコウスカ

*2:まさに妄想

*3:ジャネット・マクティア=イケメンである!