彼女の、仕事と人生/人生と仕事『ゼロ・ダーク・サーティ』

この1年は仕事と人生について、ぼんやり考えることが増えたりしたのです。生活に占める仕事の割合がかなりのパーセンテージになってしまい、職場を離れてもなお、仕事のことが延々と脳の一定割合を占めてとどまり続け気掛かりで頭を悩ませたり。お金がないと生きていけないので、お金を安定的に得るために就職します。それが熟慮の末に就いた、というわけでもなく色々の偶然や諸々の選択の行きつく先に得た職でないことも多い。憧れ焦がれて就いた職でも、適正がなかったとか、こんなはずでは…と辞めることもあろうし、なんとなく成り行きもあって就いた職が、適正ばっちりではまることもありましょう。自分は「憧れ焦がれ就いた職」ではなく、「なんとなく成り行きもあって就いた職で、適正は普通、お給料もらうだけの職責は果たそう」という感じでありまして、これまでも多忙な時期や困難なこともたくさんありましたが、この一年はかなり厳しかった。「現在の仕事に実生活のほとんどを占められてる現状が心身ともにしんどい」事態に直面しつつ、「でも、やっぱりお金は必要で大事」ということで身動きが取れない感じでした。
長々と前置きを書きましたが、今作の主人公マヤの仕事は「ある男」を追い詰めること。その仕事が彼女の脳のほとんどのパーセンテージを占めていき、仕事=生きる、がどんどん直結していく具合をドラマで見せられて、最近の自分の“仕事/人生”について思考している部分を刺激されたようなあんばい。おそらく1年前なら自分の感受性はこんなではなかったろうし、1年後に観たら全然違うかもしれない。たまさか今のタイミングで観たからこんな感想になるんだろうな、と、思いつつ。
もちろん1日24Hのうちの最低でも1/3は仕事が占めるわけだから、仕事はいやでも応でも生活や人生に大いに影響する。ただ、自分とは違いマヤのような仕事は、人の生死にも大きな影響を与えかねないという意味でも十分に重いのに、更に目的が「仕事=ある男を捜し出し殺すこと」にどんどんフォーカスされていくと、マヤ自身の実人生、ひいては彼女のアイデンティティはどうなってしまう?マヤは「アメリカ」という国家を「正義」と信じて、その「正義」を遂行すべく「アメリカ」や「大義」やらと自分を同一化していってた?それは違うな。パキスタンでいよいよテロリストに命を狙われるリスト入りしてしまったマヤはアメリカに戻るけど、その彼女の職場のPCのデスクトップの画像は彼女が失った大切な同僚とのツーショット。一瞬それが映ったとき、彼女の行動原理の一端が垣間見えた。間違いなく“復讐”の要素があるわけで、それはある種プライベートな“感情”だよね。
ビン・ラディンの隠れ家と思われるところを発見したマヤが、マーク・ストロング演じる上司のところへ行き、“ターゲットを見つけたのになにもせず手をこまねいている日数”をガラスの壁面に書く行為はいかにも彼女らしい。脳のほとんどを、人生、仕事、目的、そして“感情”がないまぜになった目的=ある男を殺すこと、に占められてしまったマヤだから、そんな待ちの状態が耐えられないよな、と。…このマヤを演じきったジェシカ・チャステインの演技は、本当に素晴らしかった。
ラストのビン・ラディンの隠れ家への“襲撃”はすごい迫力だったな。日本でいえばオウムのアサハラ逮捕劇をこうやって映画化できないのかな、とぼんやり思ってました。
冒頭の拷問シーンから襲撃シーンまでリアリティと迫真の演技とそれを支える素晴らしい仕事ぶり(小道具やらロケやらセットのクオリティ)。それらは拷問を奨励するとは思わない。ただそれを観る受け手によってそう捉えてしまうかもしれないけど…自分にとっては、ひたすら空虚な行為に見えた。拷問をして証言を引き出すことは、それが果たして正義につながるのか、疑問符が付されている*1。ラストのマヤの眼から流れる涙の空虚さといい、観ているこちら側も何とも言えない気持ちでいっぱいになる。「あの男」を殺したことは、なにも解決しないし、なんのカタルシスももたらさない、その殺伐とした様ったらなかった。そして高卒でCIAに入局以来やってきた仕事の目的を達した彼女の心に去来したのは?彼女の今後は?…彼女の仕事と彼女の人生、人それぞれにそれらの適正バランスは違うんだろうけど、マヤのような生き方は自分には到底できぬな、とまた思うのでありました*2
ゼロ・ダーク・サーティ』(2012/アメリカ)監督:キャスリン・ビグロー 出演:ジェシカ・チャステインジェイソン・クラークカイル・チャンドラージェニファー・イーリーマーク・ストロングジョエル・エドガートン
http://zdt.gaga.ne.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD23090/index.html

*1:途中で帰国して事務仕事でもするわ、と言う先輩の姿を織り込んだりることとかね

*2:そもそも彼女自分ではレベルが違うが