『世界にひとつのプレイブック』

たとえば、結構な枚数の書類をコピーしようとコピー機に行き、原稿送りのところに原稿をセットする。上から順番に紙が送られていき順調にコピーされていく。が、突然の異音とともに原稿はグシャグシャになり、エラーメッセージ。あぁ、ステープラーで留めた原稿が混じってた!ぐしゃぐしゃになった原稿を取り除くも、それから紙送りの調子が悪くて音もおかしい。業者を呼んだらステープラーの針が機械のなかにはまっちゃって、調子がおかしくなってたよ。
今作の主人公もそんなふうに、ちょっと調子が狂ってしまった人たち。それまでに潜在的にあった(ちょっと狂っちゃうかも、っていうような)要素が、ある契機/事件により暴発し、脳や感情がシステムエラー状態になって、すべての言動が裏目に出る、人とコミュニケーションがはかれない、すれちがい行き違い、乖離していってしまう。乖離していることに気付いてればいいけど、システムエラー起こしてる脳は、そんな“自分にとって都合の悪い現実”を見ないように自己防衛しているから、周囲から浮き上がって空回り。余計に事態は悪化。そんな悪循環する主人公の状況を描いた前半がすばらしいね。昔の職場に行ったり、夜中に異常行動起こしたり、それをレポートのネタにしようとする近所の学生が現れたり。色男ブラッドリー・クーパーが、すっかりおかしな人を演じてて、この人めちゃめちゃ演技うまいな!と思った。あの目は、同じ世界をみてるはずが、違う視点で違うヴィジョンを見ちゃってる人だったものな。
そんな少しのズレは、決定的なズレで、すべてがうまくいかない。でもその微調整をするのには、ひとりではやっぱりムリで、コピー機だってそのエラーに熟知したメンテの人を必要とするし、ちょっと狂ったパットを救うのは、同じようなシステムエラーを起こしちゃったがゆえに“分かる”人じゃなきゃいけなかった、それがジェニファー・ローレンス演じるティファニーなのだな。
ここからの流れはまさにファンタジー。ハリウッド的な展開。パットはどんどんかっこよくなっていくし、デ・ニーロ演じる父は素直に心情を吐露したりもするし、ジェニファー・ローレンスの丸っこいボディ(胸もお尻もほっぺたも…全体に丸い)は魅惑的である。それでもビターな現実的なエンディングなんてこの映画では観たくない、最後まで突っ走れ、ハッピーエンドこそが正義だよね。
実は今作の予告を観たときに「これは『思秋期』とちょっと共通する映画なのかも」と思ってそんな先入観が若干ある状態で観たけど、後半パートで、全然違うものになっていってた。いや当たり前なんだけど。『思秋期』のようなズシンと来る映画も必要だし、『世界にひとつのプレイブック』のような夢のような幸せな映画も必要だな、と思ったのでした。
世界にひとつのプレイブック』(2012/アメリカ)監督:デヴィッド・O・ラッセル 出演:ブラッドリー・クーパージェニファー・ローレンスロバート・デ・ニーロ、ジャッキー・ウィーバー、クリス・タッカー
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