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飲んだくれカリスマ機長の“かみさま”『フライト』

デンゼル映画。『デンジャラス・ラン』につづき、デンゼルの劇中に映ってる時間:スクリーンのデンゼル占有率の高い映画なのですが、今回のデンゼルは飲んで飲んで酔って酔ってドラッグをキメてキメまくるカリスマ機長。腕は確かだが、プライベートは破たんしておる人。しかし酔拳ばりに酔えば酔うほどハイになり、自信が満ち満ちて、すごいテクニック(もともと持っている潜在的能力もあってだろうけど)で、常人には思いつかない発想のアクロバティック背面飛行で危機的状況を切り抜ける。
最初、デンゼルのパートと並行してケリー・ライリーのドラッグ中毒パートが描かれるのが不思議で。それが事前に予想していたのと違う物語だという証左だったのですよな。
かみさまはいるのか。
現実や人生はつらい。困難ばっかり。うまくいかない。欲しいものやそばにいてほしい人は手に入らず、孤独。それを酒やドラッグは、もう即効性ありで、ふわっふわの気持ちにしてくれて気持ちいいったらないったら気持ちいいったらいいんだ、現実にかみさまいなくていいよ、酒やドラッグが救ってくれる。いや、目先の苦しみを忘れさせる快楽を得た後は、ちょびっと後悔…や、結構心底後悔することもあるし、結局それで妻とも離婚し子どもにも会えなくなってしまったわけだけれども…でも、今、現実にこの手に掴めるそこある救済に縋らずしてどうするよ。…結局自制できずにその場その場の快楽を選択して、次の日に後悔、その後悔が長引き、澱のように積もる後悔はかなり、かさを増してきた。
セルフヘルプ。アルコール依存からの立ち直りに依存症者の会、とか自助グループっていう、あのセルフヘルプ。結局自制する心を保つのは自分しかできぬというわけで。かみさまはいない。デンゼルが公聴会の前にホテルに缶詰めされる場面の秀逸なこと。クリーンなまま一夜を過ごせそうだったのに、ノックするような音、風のいたずら、窓の外にみえる上昇していく飛行機、そして、小瓶をアップにして映し、それをスカっと爽快に奪い取る手のキレのいい動き!このヘンな、背徳的な爽快さったらないな。ここで自制できないのが弱き者:人間だよな。そして翌朝、ジョン・グッドマンが嵐のようにやってきて、上質のコカインをキメさせる手際のよさ(ジョン・グッドマンといえば、前半、事故で入院しているデンゼルのもとを訪れるパートもよかったな)。
公聴会の席上クライマックス。デンゼルは、かみさま…と唱えるけれど、それは大切な言葉を発する前の「あぁ」とかって単に言葉を調えるための、発話を助けるための繋ぎの言葉みたいなもので、その後、彼は事実を告白することを選択する。これは、かみさまの意志なんかじゃない、自分で選択したこと。自らの飛行機操縦の腕に自信を持ちつつも、自制心を保てなかった弱い自分を認め、そして死者を陥れないことを選択したことが導いたラストの着地に唖然とする。この域に到達するとはな!デンゼルが最初に成し遂げた奇跡の着地とおなじ、いやそれ以上のアクロバティックで強引な着地。でも、これぞ映画だよな、映画だからいいじゃん、うん、ヘンな映画だけどおもしろかったな。
『フライト』(2012/アメリカ)監督:ロバート・ゼメキス 出演:デンゼル・ワシントンケリー・ライリードン・チードルジョン・グッドマン、ナディーン・ベラスケス
http://www.flight-movie.jp/
http://eiga.com/movie/57488/