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イマココに生きる若者のお話であり、普遍的な物語でもある『ウィ・アンド・アイ』

ミシェル・ゴンドリー監督の最新作!ということしか知らずに行きました。二つ折りパンフ状のチラシはもらってたけど見てなくて…それが奏功した。これから観る人はぜひとも予備知識無しで観てほしい。
NYブロンクスの高校。さぁ、夏休みという学年の最終日、明日からの休みに浮かれきった高校生たちが路線バスに大挙して乗りこむ。それぞれの最寄りバス停まで乗って帰途につくわけだ。ペチャクチャおしゃべり。一般の客も乗っているが我が物顔でやりたい放題。スクールカーストはそのままにイケテナイ奴らはバカにされ、マンガボーイも茶化される。もちろんバスの最後部座席はクラスのカースト上位…というか派手で傍若無人でパーティ好きな能天気なバカ高校生が仕切ってるわけで。前の方ではsweet16partyに呼ぶ人選や準備で頭がいっぱいのクィーンや、ひとりが女性と浮気しちゃったことでうまくいかなくなったゲイのカップル、バンドに夢中で自分が相当イケてると思ってるギター男とその腰ぎんちゃく、吸えないタバコをかっこつけて背伸びして買ってそのタバコをちらつかせて女の子の気を惹こうとする童顔妄想少年、一般客おじさんの表情をバカにしたように真似るつまんない連中、毅然とした態度をとる老女をバカにするも手痛い逆襲にあうふとっちょ、ふと歩道に目を遣るとハッとするほどの美女が自転車でしばらく併走していてたまさか目があったことを運命と感じるヤツ*1、バターをフローリングの床に塗って滑って転んだ友人の動画がおもしろすぎてバス車内でどんどん回し見しては動画を転送していくどんどんどんどん拡散…でもその動画メールが届かない女の子:とあるコトを機に学校にいけなくなって3週間ぶりにレディガガ風ウィッグをかぶって現れた自意識過剰な女の子…。
ゴンドリーのディレクターズノートがすばらしい。これを転載するだけで十分な気がする。(一部ネタバレ部分は反転で読めます)

高校時代の僕は、個人主義の生徒だった。友達はもちろんいたけれど、人数の多いグループには一切加わらなかった。十代の子たちが集団で行動するときのあの感じが好きじゃなかった。集団としての存在感が増して個人の責任が及ぶ領域が狭くなると、いわゆるステレオタイプが強調される感じがイヤだった。親分が牛耳って、その子分たちはひたすらへつらうようになる。要するに、誰もが自分とは違う誰かになりきっていた。その後パリで、高校生たちで超満員のバスに乗り合わせる機会があった。彼らはみなで大挙して乗り込んで来て、それぞれ別々に降りて行く。僕は彼ら一人一人のいろんな様子をじっくり観察することができた。停留所に停まるごとに集団としての性格が希薄になって、個人の姿がくっきり現れてきた。最初の方は大声で無駄話していたのに、それもだんだん深みのある親密な会話に変わっていた。最後に残った二人は、僕のすぐ後ろの席で哲学について話し始めた。この出来事の舞台をニューヨークのブロンクスに移して、この街の高校生の世界として再現したのが「The We and The I」だ。波乱万丈でひどく困難だったりもする彼らの日常では、携帯の画面で誰かの死を知らされたり、堪えきれずに泣いたり慰めにすがったりすることもある。パリの上流階級の子たちとはかけ離れた生活に見えるけれど、人間なんて根底のところではそんなに変わらないと思っている。僕は2年半かけてアメリカの若い子たちに密着し、話を聞き、撮影をした。これは、彼ら自身の物語だ。話し言葉、大げさな表現スタイル、使った音楽も含めて、何もかも全てが彼ら自身のものだ。

うん、もうこれ以上書くことないや。このとおりのストーリー。これが涙が出そうなほどグッくとる。バスが進むのとほぼ同じランタイムでバスの中だけの描写で進む劇中の物語は、集団にしか見えなかった彼らについて時間経過と共にエピソードが語られると彼らの物語が網目が編まれるよう描き出されていき、それらの相関関係の中から彼らの個人的ストーリーが浮かび上がってくる。小さい集団のなかでイケてると思ってる連中のしょうもなさ、そしてそのしょうもないグループに属しながらも違和感を感じてたヤツが最後まで残ってた車内の同級生とふとかわした会話で「あ、今まで無視してた奴だけど、こいつとはうまくいくかも、違う友人関係築けるかも」と思った瞬間の痛烈なしっぺ返し。この瞬間観客である自分もある種のファンタジー*2をガツンと破壊されて思わずハッとなる。そうそう、そんなにうまくいかねぇよ、ってね。
ブレない核のようなものを持ってるヤツはつよい。映画のなかにでてきたヘッドフォン少年とマンガボーイはそうだよね。だから彼らは他の人にすごい力強い影響を与えうるんだと思う。ある女の子に自分の進みたい道(絵)をあきらめちゃだめだとか、お前らみたいなしょうもない連中がバスで迷惑かけまくってたのをすぐあっさり許すかよ、と冷や水あびせて根本的なしょうもなさに気付かせたりね。
ここから先ネタバレあり。あぁ、それにしてもあの動画。最初にあの動画が持っていた意味と、最後で持つ意味があれほど変わるとは。今持っている若さが永遠に続きそうに感じていて、若いってだけで特権を、しかもものすごい特権を持ってると根拠なしに思い込んでる年代。あふれんばかりの生を生きていたばすなのに、あっけなくその生が断ち切られ、そのことを携帯メールで知るその事実の重さとツールの軽快さのギャップ。友人の死という衝撃的事実を知った直後についパーティのことを気にしてしまう感覚…。うん、やっぱりこの映画、すごいと思うよ。NYを描いてこれほど地べた這うように魅力的なのは、すごいね。そして紛うことなくイマココに生きる高校生のコトバ(おそらくスラングとか若者言葉が横溢していると思う)、身体感覚や身のこなしを活写しつつ、普遍的な人間関係のストーリーになっているところも、とてもよかった。ゴンドリーが時間をかけただけあるや(この映画の準備途中『グリーン・ホーネット』で中断したりしたみたいだものな)。
『ウィ・アンド・アイ』(2012/アメリカ)監督:ミシェル・ゴンドリー 出演:マイケル・ブロディ、テレサ・リン、レイディーチェン・カラスコ、レイモンド・デルガド、ジョナサン・オルティス
http://www.weandi.jp/
http://eiga.com/movie/77944/

この映画みた多くの人が『桐島』を思い出すような気がするね。

*1:そしてその妄想を遮った奴を罵倒ってね

*2:それこを映画とかで見慣れたファンタジー