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甘くて苦い初恋ノスタルジー『建築学概論』

いかにも韓流ぽいポスターに、「うーんどうだろ」という一抹の不安もあったけれど、これはよかった。どこか『サニー』ぽくもあって。やはりノスタルジーは甘い糖分みたいに人間が本能的に好んでしまう要素なんだな。とりわけモノやアイテムという具体的な「プロダクト」と結びついた思い出を呼び覚ます。だから、きちんと細部にこだわって描写できているかどうかが重要。今作はそういうディテールもすばらしくて、それが最高。具体的な物などのディテールがきちんと描けている裏打ちあってこそ微細な心情も描けるのです。
CDウォークマン、イヤホンの右左をわけてふたりで聴く、ポケベルでの不便な連絡、なぞのジャンパー、ムースで髪をキメて…そしてGUESSのTシャツ!(いまもGUESSってあるん?)。このTシャツの使い方が最高すぎて泣いた。赤い逆三角形の中にGUESSの文字。おぉう、これブランドだぜ、って主人公の一張羅なわけで。気になるあの子とふたりでお出かけ(建築学概論の課題のために、なんだけど)。オカン、これ洗濯しといてくれや!むりくり洗濯して急いで乾かして、彼女と会うときはコレな、このTシャツな。それが、先輩の車で送ってもらうさなか、助手席に彼女がすわっちゃって所在ない主人公は後部座席で狸寝入り。そしたら「なにあのTシャツ、スペル違うじゃん、バッタもんじゃん」って笑われて…よく見たら「GEUSS」って書いてる!主人公は家に帰ってオカンにTシャツ投げつける、オカン「まだ着れるやん、なんやのん急にこないだまで大事にしてたのに」。…現代パートでは、主人公が久しぶりに家に帰るとオカンが相変わらずパンパンに詰め込んだ冷蔵庫から息子のために料理を出そうとする。そのオカンの着ているTシャツが…あのバッタもんGEUSSのTシャツ!おぉ、恋愛映画でありつつ、オカン映画でもあったのだ!韓国映画のこういうオカンのさらりとしたすごい描写は『母なる証明』とか最近観た『嘆きのピエタ』など、一種伝統のような気がする。韓国といえばバイオレンスだけでなくオカン描写も名物なんでは…(韓国のオカンに対抗するとしても『はじまりのみち』みたいな感じなるかな、日本は)。
伏線の配置とその回収も巧みでした。ラスト手前の盛り上がりから、甘すぎず、さわやかに終わるラストは気持ちよい鑑賞後感を覚えさせてくれました。若い頃の自分ってイタイ。まして若い自分の初恋なんてもっとイタイ。妄想につぐ妄想で空回りや情けなさや、今思うとほんのささいなことでの有頂天っぷりや。でもそれもこれもふくめて、二度とは戻らない日々だし消えない過去。ノスタルジーは甘いだけではなくて、ちょっと辛かったりしんどかったりすることも含めて思い出される。それは痛気持ちいいような、むずがゆいようななんともいえぬ複雑さを伴っていて、不可解で、だからこそとても惹きつけられてしまうんだよね。
建築学概論』(2012/韓国)監督:イ・ヨンジュ 出演:オム・テウン、ハン・ガイン、スジ、イ・ジェフン、チョ・ジョンソク
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