フランス映画らしさを満喫したいくつかの理由『タイピスト!』

タイピスト!』を観ましたよ。可愛らしいポスターイメージ、予告から漂う「恋も成功も手に入れちゃうかわいい女子物語」感。50年代フランスのレトロでオッシャレーなファッションやデザイン等の感じ。…というよりは、予告からほの漂う「スポ根」感にこそ一番興味がありました。観終えて、たしかにタイピングというアクションの「筋力」「10指を自由に操る能力の極限」「用紙セッティングの技術」「タイプの機械の動きのダイナミックさ=たのしさ」も十分楽しみましたが、なにより「スピード」!。圧倒的速さに魅せられてしまうのは人間の性でしょうか。
「スピード」は誰の目にも明白です。フィギュアスケートやスノボ、器械体操みたいに内容の芸術性やワザの難易度ではなく、「とにかくタイプを正確に早くできる者が勝ち」というのはとてもシンプル。100M走やマラソンの速さは観客だれしもが理解できますからね。とにかく最低限のルールを守ったうえで、いっとう早いものが勝ち!自分の“平凡な一般人”の能力と比較して人間の能力はこんなレベルのことも為しえるのか!と圧倒されてしまう。
主人公のローズは物語冒頭、秘書の面接にて一本指打法を披露する。彼女を追い返そうとしたエシャール氏は、彼女の超速タイピングを目の当たりにしてついつい彼女を雇ってしまう。エシャール氏は過去に様々なスポーツをたしなんできた過去があるので、彼のアスリート魂に火がつくわけですな。「この娘、鍛えれば伸びる…!」コーチ魂に火がついた。人を育て、花開かせることに喜びを見出すタイプの人はいますね。
そのうち、ローズはエシャール氏を、氏は彼女を恋するようになるが…という予想通りの展開になるのですが、これでおもしろいのはローズはものすごく積極的なのですよね。露骨にアプローチするし、言葉でもはっきり言う。今作がファンタジーってこともあるだろうけど、あくまでローズとエシャール氏の関係性はクラシカルなものではないのですのよな。きわめて現代的な男女の在り方です。それにローズは理想の男性像を尋ねられて*1、こう答える「対等であること」。おぉ!と思いましたね。シンデレラのように王子様にフックアップされる人生を望んでなんていないのです*2。自分の好きな人やものをつかみたい、と能動的に動く女性なのです。そのための彼女の武器になり自信を与えてるのはいうまでもなく「超速タイピング」なのです。
それにしてもフランス映画らしいなぁ、と思ったのは、ローズとエシャール氏の年齢がはっきり示されないところ。途中「10歳以上歳の差が」とセリフがあるけど、日本なら○○歳と○○歳、と数字で示しそうなもの。フランス人はそこらへんのとこあんまりこだわらなさそうだよな、というぼんやりとした自分のフランスイメージを裏付けたのです*3。英語でも兄弟姉妹ってbrother、sisterで年上だか下だか曖昧だしなぁ、というぼんやりした欧米イメージ。
もひとつフランス映画っぽいなぁ、と思ったのは、ローズのバストがばっちり映ったとこですね。さすがだ。ハリウッド映画のちち隠しっぷりはすごいから(もしくはボディダブルとか)。ふたりの絡みの場面も必要以上に長いと感じた。そう、今作は予告で予想した以上にセクシャルな風味がありましたね。ローズの姿勢を正すエシャール氏のボディタッチ具合など、うーん、さすがフランス映画だとうなったのです。アメリカだとレイティングにひっかかりそうだな。
あとは伏線か?と思ったようなことを結構スルーしてするすると物語がすすむところ。こういう「装飾」がフランスっぽい。脚本がー、とか三幕構成がー、というとムダだったりするような部分も多いですが、そういうムダ=装飾=映画のキュートさにつながっているところも多いかと。
映画の中でも出てきたけどフランス人は、ビジネスより、恋。言ってもフランス料理でうまいものばっかり食ってさ、という感じ。あとタバコすぱすぱ吸ってはワイン飲みまくり。そうしてタイピング一本で恋も仕事も成功もゲットだぜ!いやぁ、こういう映画も必要、必要、好き好き。たのしい。
日本でこういうスピードを磨いて成り上がり恋もなにもかもゲット!を映画化するならなんだろう、と妄想する。最近流行りのフラッシュ暗算か…いやいや伝統のアレがある。百人一首のかるた取り。あれもクイーンじゃん。特訓シーンとかいろんなバリエーション考えられそうだし。とかなんとか妄想したくなる楽しい映画でした。劇中にでてきたタイプの音をフィーチャーしたビッグバンドの曲もステキでしたよ。
タイピスト!』(2012/フランス)監督:レジス・ロワンサル 出演:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ、ショーン・ベンソン
http://typist.gaga.ne.jp/
http://eiga.com/movie/78064/

*1:当然理想の男性像としてエシャール氏を想定しながら答えてるのだけど

*2:また、エシャール氏が料理男子である、という描写もきわめて現代的です。誕生日にケーキまで用意して。なんというイケメン

*3:ひょっとしたら原語ではそこに言及してるかもしれないけどね