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最近観たおもしろダメ男映画(その1)ダメ男は観覧車での情事を夢見る『愛のタリオ』『薄氷の殺人』

ここのとこ立て続けに観た映画がダメ男映画で、どれもおもしろかった。
まずは『愛のタリオ』。原題は『マダム・ペンドク』で全然タリオ要素はないんですが、こういう大仰で意味不明だけど情欲が絡んでそうな雰囲気をもつ邦題は作品に合ってる。タリオはラテン語で「目には目を歯には歯を」という復讐/制裁をあらわしてるとか。観たらそのとおりのお話で、チョン・ウソン演じる大学教授で小説家が女にだらしない最低ダメ男で、このダメ男のせいで人生狂わされた女がウソンさんに復讐するお話。超速展開ドロドロ愛憎R18のセックスシーンもたっぷり。しかしこれ全然エロくありません。あまりに現実離れしすぎてすべてがファンタジーで、セックスシーンも激しく見せようという意図の先だったアクロバティックさが目立つ。お話の展開は短い文章が連なってページを繰るごとに超展開していくおとぎ話のようで*1、文章と文章の行間を読むような脳の作業は不要なのです。ウソンさんが長年の放蕩がたたって糖尿病で目が見えなくなり、白目剥いてセックスしてる場面を観ても、観てる自分は“無”の心持ち。主人公への共感もないし、身を切るような切実さもないから、なんら心を動かされない。でも、この超展開映画、「ありえねー」とか「わかりやすい伏線があったから、展開はやっぱそうなるんだよなぁ」と突っ込みつつ、つい観ちゃうのです。ウソンさんはセクハラ疑惑で田舎へ逃げても、そこにいる唯一の若い女性にせまられちゃうし、その女を捨てて都会に戻っても大学で女子大生がすり寄って来るし、本を書いたらベストセラーになっちゃうし、お金の運用に失敗したらそれを紹介した友人を責めるし、借金のカタに娘が売られても、うわぁぁ娘よぉぉと言いながらそのお金受け取っちゃって、昔捨てた女に世話してもらって生活していくし。彼はとにかく「こうなってるのってボクのせいじゃないよね、まわりのせいだよね」と思ってて、誰かが何かしてくれるのは当たり前だと思ってる。運命の波にのまれようが翻弄されようが自分でなんとかしようなんて思ってない。自分は特別で、自分は選ばれし者で、そんな特別な自分の人生なのだから、なんとかなる*2し、女も自分のために尽くしてくれて当然と思ってる。観終わった瞬間に「全方位からみて、一部の隙も無く最低だな、こいつ」と自分のなかで結論付けました。しかし、これは極端だとしても、映画においてはこういう甘ったれたダメ男がまわりにドラマを巻き起こす中心点になるからおもしろいんだよね。そして現実にもこういう人(男女問わず)いるよ。関わり合いになりたくはないけれど、いるいる、そして結構グループの人気者、中心的人物だったりするんだよね。根本的にちょっとダメなとこあるな、と思っても天性の甘え上手だったりするのかして、つい周りが甘やかしちゃう→そいつがなんかやらかす→周りに迷惑かけてしまうけど結局周囲がなんとかしてあげる→またなんかやらかす→(延々ループ)。こういうダメな人のダメな部分を拡大して、誇張して作劇した今作はウソンさんの生真面目な演技*3とありえないファンタジー度合がうまく働いてトンデモだけどおもしろ映画になってるけど、これハンパにやったら途中で席を立ちたくなるような出来になっちゃうだろうな、と思いました。

さて、続いて『薄氷の殺人』。今作は「雰囲気映画」だと思いました。殺人のヤバそうな雰囲気、エロティックな雰囲気、未亡人の持つあやうい雰囲気等々…それをぬくぬくと映画館で観ている自分の心身が震えそうなほど寒々しい極寒のロケーションでなつかしい歌謡曲のレトロさも相俟って雰囲気たっぷりに描く。その演出や色彩設計や編集の見せ方のスタイリッシュな感じ*4、これはまさしく雰囲気映画。好き嫌い別れるだろうな、と思いますが自分は時間が経つほどに好きになってきた。もともとグイ・ルンメイが好きなんで彼女が美しくミステリアスに描かれてるだけで自分はOKなのですが、ルンメイに惹かれていく元刑事のダメ男ジャンのダメ男要素こそが本作の核。だから彼を演じたリャオ・ファンも銀熊賞を獲ったのでしょう。彼の刑事としての能力はあるのに、女に関してはグズグズとしただらしなくなってしまう、という「まるでダメ男」要素こそがこの映画のポイントなのです。ダメだと分かりつつ女の魅力につい惹き寄せられ、身を持ち崩し、愛欲に負けて溺れる弱さを持つダメ男あってこそ、ファム・ファタルも魅力を放つのです。

で、上にあげたトンデモダメ男映画『愛のタリオ』と栄えあるベルリンの金熊賞に輝いた『薄氷の殺人』には共通することがあるのです。それはなにかというと、「観覧車でのラブシーン」。かの『タイタニック』のガラス窓に手形バーン!インスパイア系映画をここにきて二本連続で観るとは。あれは「絵になるからやりたぁい」ってなるんだろうな。あと、観覧車に幻想抱きすぎなんだよ、男の人は、と思うほど観覧車=密室でふたりきり→エロ、という図式が短絡的に完成している。そんな脳内妄想を映像化してるのな。そういう意味でもダメ男ファンタジーの象徴ともいえるかもしれませんね、観覧車は。でも『愛のタリオ』で観覧車で情交してるふたりを下からみあげて「おぉ、やっとるやっとる」とニヤニヤうれしそうに見つける地元のおじさんが出てくるあたり、『タリオ』の製作陣がある意味メタっぽい視点持ってますよ、というところを感じさせるような気もしますね。

映画 薄氷の殺人 パンフレット

映画 薄氷の殺人 パンフレット

*1:ある意味この映画、絵本にできそう、監督も寓話性は意識してるようだし

*2:ギャンブルは勝つはずだし、全盲になるなるいわれてもまぁそんなことないだろうし、借金もどうにかなる

*3:でも決して器用でもないし上手くもない

*4:とりわけラストカット