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『フォックスキャッチャー』

映画

去年のうちから楽しみにしていた作品。公開された初週にさっそく劇場に足を運びました。
あらすじ:大富豪のデュポンさん(スティーブ・カレル)が金メダルとれそうなレスリング選手マーク・シュルツ(チャニング・テイタム)をスカウトしてチーム・フォックスキャッチャーとしてやっていこうぜ!となるのだけど、なんだか様子がおかしくなっていくな…そのうちマークの兄デイヴ(マーク・ラファロ)もチーム強化に招かれるのだけど…
ほとんど予告を観ないまま本編に臨みましたがこれが滅法おもしろかった。単純にこのお話どうなるの?という物語の求心力もあるのだけど、キャラクターの魅力に惹き寄せられるという感じ。テイタムはさすが安定の“青二才”っぷり…イイネ!ラファロさんの頭髪から作りこむ*1役作りとにじみ出る人懐こくて器デカそうな人間力あふれる演技もイイネ!ふたりのレスリングでの絡み合いっぷりもイイネ!テイタムがシャドーボクシングならぬシャドーレスリン*2も様になってていい感じいい感じ。だけど、今作の肝はなんといってもスティーブ・カレル演じるデュポンなのです、デュポンを演じるカレルの眼の奥の決して笑ってない、というか何考えてるのかわからん虚ろな表情が素晴らしい、心の中のイイネ!ボタン連打です。時に、おかしな予想もつかない突拍子もないことを言いだすと、キタァ!と嬉しくなるし、一方で空恐ろしくもなる。音楽はほとんどなく、きわめて抑制され寒々しさを感じさせる色彩設計、固定カメラのカチッとした画面、少ないセリフが大変効果的で、そしてどこか不気味で不穏な空気が充満したような息苦しく居心地わるい思いを観る者に抱かせるこういう不穏さ、嫌いじゃない、というか大好き。観ててゾクゾクする。
デュポンとマークは完全に主従の関係にある。金持ちデュポンに見染められてマークはフックアップされた、というわけだから、関係性の優劣がついてて、それゆえマークは常に自分より断然小柄なデュポンのことを見上げてるような感じだし、デュポンはすべての他人を見下げてるような目つきなのだよな。だからご機嫌伺いしているような立場のマーク*3はスポーツマンとしてのプライドやモチベーションを保てなくなってきてドラッグもやるようになるし、本当、精神的にダメになってくる。…いつかデュポンが自分に寄せてる寵愛を失うのじゃないか、この言動まずいかも?と臆病になってる。しかもデュポンは尊敬を金で買ってしまっているタイプの人間だから、彼を飾りたてる○○愛好家や、○○研究家とかいう、セレブリティにありがちな知的な修飾で自分を高く見せようとするその志向はわかるけど、肝心要の彼の“人柄”がわかんないので、思考が読み切れない。理解不能なまま、マークはデュポンの不機嫌な怒りを買ったり、寵愛を兄のほうにむけられたり…なんでオレがこんな目にあわないといけないんだ!とキレるマーク。それに対して、兄のデイブはデュポンが扱いづらいと分かりつつうまいこと対処できる大人力を持ってて…時に友人扱いしたり、対等に接してる(ように)みせたり…しかしそれが最後の悲劇の原因だと思うのだけど。
デュポンは小さい頃から友人すら金で買われたものとして与えられていた。彼をひとりの人間として扱い、接してくれる人が全くいない状態だった*4ので、(初期の)マークのように自分を尊敬してくれる存在が必要だった。自分のおかげで金メダルを獲れた、といってくれる存在。だからデュポンの人生で最高の瞬間は(初期の)マークが国際試合で勝利してデュポンに駆け寄って抱擁した瞬間だったと思う。あの瞬間、デュポンにとっての世界は完璧だったはず。ただ、それがエスカレートして、マークだけではなく世間広くから尊敬されたい、自分をより偉大に見せたい、と欲求し、そのためにマークを利用するだけでなくデイヴの力を取り込もうとしたとき、それまで内包されていたデュポン自身の持つ危うさが一挙に表面化し、バランスが崩れる。デイブの人間力は、デュポンの上を行ってる。ダイブはデュポンを見上げていない。なぜならデイブは自分に誇りをもってるから。愛する妻とこどもがおり、なおかつ、その妻やこどもらから愛されているデイヴ。デュポンは憎くなっていったのではないかな。不安定でフラジャイルなマークこそがデュポンを補完する存在だったということかな。出会いからしばらくのデュポンとマークはまるで相互依存状態で蜜月状態*5。しかしそんな蜜月はいつまでも続かない…。それにしても、デュポンは自分のことしか考えてないし、自分のことしか考えられない人間で、つまりwikiにも書かれてるように精神の病を得ていたともいえるだろうし、結局彼は遅かれ早かれなんらかの事件を起こしただろうね。
今作は実際の事件をベースにしているけど、たくみに映画にしている。ウソをまぜ、より純粋に作劇している。ベネット・ミラーって本当にうまいなぁ、と思いました。スティーヴ・カレルの新境地を見せる演技も本当にすばらしかった。あとチーム・フォックスキャッチャーのパーカーが欲しいっす。
『フォックスキャッチャー』(2014/アメリカ)135分、PG12
監督:ベネット・ミラー
http://www.foxcatcher-movie.jp/

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*1:最近ではクリスチャン・ベールが十八番にしてるイメージ…『ザ・ファイター』『アメリカン・ハッスル

*2:一人でイメトレしてる感じ

*3:飛行機の中でデュポンを褒め称えるスピーチを練習させられる場面は最高だったな

*4:それはデュポンの母ですらそうなのだよね

*5:恋愛の初期みたいに