8月1日映画の日に観た二本『ボヴァリー夫人とパン屋』『進撃の巨人』

毎月1日はほとんどの映画館で映画の日。1本大体1100円で観られます。8月1日は土曜で映画の日だったのでハシゴしてきました。作品チョイスは前々から絶対観る予定作品だった『ボヴァリー夫人とパン屋』、あと一本はスルーしようかと思ってたけど試写の評判や諸々で観たくなった『進撃の巨人Part1』です。
『ボヴァリー夫人とパン屋』はジェマ・アタートンとジェイソン・フレミングがイギリス人夫婦役で、この二人がフランスのノルマンディーに引っ越してくるところから始まります。その田舎の古い家の向かいに住んでるのは人の好さそうな、でもその実、妄想力が人並み以上にたくましいパン屋のおっさんなのでした。この妄想おっさんが語り手となって進みます。ジェマが演じるのはジェマ*1。そしてその姓はボヴァリー…となればあのフローベールの大傑作『ボヴァリー夫人』を想起してしまうわけで。しかし妄想おっさんはその超絶美人、というわけではないけど、物憂げな表情やどこか物足りなさそうに宙を眺めるさまが男を引き寄せてしまうジェマに「こんな美人が田舎で充足するわけない!きっと男絡みでトラブルが起こって…『ボヴァリー夫人』と同じ末路をたどるに違いない!」と勝手に妄想。彼女が小説のエマのような悲劇的末路を迎えないようにアレコレ手を尽くそうとするお話。
とにかくジェマ・アタートンが最高でして。『ビザンチウム』の彼女がすごく好きなんですが、スレンダーというよりは迫力ある成熟したボディとすこし乱れた後れ毛がとても似合う彼女は、感情ゆたかで、理知的というよりは、生きることを精いっぱいでより良き生をつかみたい、と常に前を向いているという感じ*2。そんな彼女の雰囲気を十分生かしたキャスティング。彼女が愛犬を散歩させていたら蜂に背中を刺されて、とおりかかった妄想おっさんに毒を吸い出してもうらうため服をはだけ、息も絶え絶えにあえいでるとこ、とか、もう、これ監督、これ、わかっててやってるよね!すばらしいな、まったく!

あと年下の愛人の家に逢引きにいくのに、トレンチコートを着て出かける。愛犬を外の柱にくくりつけると、コートのポケットからハイヒールを取り出し、ゴム長靴から履き替える。そしてその恰好で家に行き、トレンチコートを取ると中は黒のセクシー下着姿!そのままふたりは情事にふけるのでした…

って、ここまで書くと、ジェマって男の夢の結晶か、と思えてくる。実はこの話、映画冒頭ですでにジェマが亡くなっていることが分かる描写から始まってる。ジェイソン・フレミング演じる夫が亡くなった妻の遺品を燃やしてるところから、ジェマが生前につけていた日記を妄想パン屋おっさんが盗み出してきて、それをおっさんが読むことから回想がはじまるのです。だから観客はジェマの日記+妄想おっさんのジェマをのぞき見しては妄想膨らませていたときの記憶がないまぜになった物語をみてるわけで。ということは全部が事実とは限らないよね。日記の行間をパン屋おっさんの妄想で埋めてるのかもしれない、とふと思いました。
出てくるパンもめちゃ美味そうでパンを愛する自分にとってはそれ眺めてるのも至福。オチもイカしてて『(500)日のサマー』のラストを思い起こしました*3。しかしこんな映画が4週連続興行成績1位の大ヒットとなるフランス…さすがだな*4…と改めて思いましたね。
『ボヴァリー夫人とパン屋』


妄想おっさん出演作、これもおもしろい

さて、つづいては『進撃の巨人』アニメは未見、原作は既読です。これはかなり観ていてしんどかった。原作の改変云々以前に、冒頭から繰り広げられる三浦君の演技に藤原竜也さん的な絶叫や間合いと似たものを感じて。三浦君の舞台を一度観たことあるけど、舞台での彼はとてもかっこよかった。しかし、今作での彼は映画のなかで舞台の演技してるみたいですこしオーバーアクトという感じ。観ていて『進撃の巨人』て映画じゃなく舞台化したらすごくいいかもしれないな、と思いはじめる。こどものころは円盤を吊ってる糸がみえても「特撮ってこういうものだから」と脳内で吊り糸を消した体で受け止めるという受容の仕方でOKだったけど、いまは技術の発達でそこらへんクリアできちゃうからなぁ。その「映画内の世界で現実にあるように」「映画内リアリティのしっかりあるもの」として特殊撮影がなされていないと、いまや受け入れられない。でも今作では特技パートがしっくりいってるように見えなかった。違和感を感じてしまった。…でも舞台なら糸がみえても脳内で「糸な無いものとして受け止める」というメソッドが観客側で繰り出されるから。それに巨人のデカさも生の舞台だとすごい迫力だぞ、きっと。
女性の役回りのいかにもお色気要員とか、そういう役割付与的なキャラ設定が空々しくて…エレンもシキシマもミカサのキャラも地面から数センチ浮いてるみたいに物語内での現実感がない。あと、みていてドキドキやワクワクがなかったのが自分のなかで決定的にダメだった。映画を離れたとこから眺めてるような距離感があって。きっと10代の頃なら「巨人きもちわるい!」「人の捕食シーン気持ち悪い!」となっただろうけど、もう、歳も取って、感受性がフレッシュではないのだな、と思いつつ劇場を後にしたのでした。こういうのよりはジェマ・ボヴァリーのほうにワクワクドキドキさせられる歳になったということか、そもそもこの映画に合わなかったのか。どっちなんだろうな。
進撃の巨人

進撃の巨人(17) (講談社コミックス)

進撃の巨人(17) (講談社コミックス)

*1:偶々?同名

*2:あくまで個人的感想です

*3:サマーのあとはオータム来たり、みたいな

*4:なにがさすが、なのかうまく説明できないけど