『誰も知らない』鑑賞体験と神戸ハーバーランドの盛衰

年齢を経ると、結構前のこととちょっと前のことが渾然としてきます。
5年前も1年前もごっちゃごちゃです。

ただ、いくつかの固有名が時間経過を感じさせるときがあります。
たとえば、オウム事件阪神淡路大震災といった社会的な事柄。
また、たとえば「柳楽優弥」という名前を聞いたとき。

『誰も知らない』のときは中学生だったよな、彼。もうハタチも超えて結婚したとはねえ」なんて具合に。柳楽氏の妻となられたエリーさんの話題を朝のTVの芸能コーナーなんかで見聞きしても、柳楽氏を連想し、ふとそんな月日の流れを感じます。
それほどに柳楽氏登場時のインパクトが強かったのです。世間的にもかなり話題になりました。なんといってもカンヌの主演男優賞という「国際的評価」による「お墨付き」もらった!しかもこどもだし!主演した映画の題材も現実に起こったこども虐待(ネグレクト)事案なんだ!っていう2重3重の条件により世間にも結構話題になりました。

是枝監督の名前は聞いたこともありましたし、その演出方法の独特なのも、なにかの映画を見てぼんやり覚えていたので、見にいってみることにしました。

出かけたのは神戸ハーバーランドのプロメナ神戸に入っているシネカノンでした。
まだその頃は、シネカノンもいろいろ映画事業にも資金を出して製作したりしていて勢いがあったころ、だったのかな。
話題作ということでいつもは余裕のある客席も完売につき整理番号で並ばされて順々に着席という事態。シネカノンであんなことになったのは、後にも先にもあれだけでした。

ふらりと一人で観にいって、左隣は女性二人客、右隣は夫婦でした。右隣はちょっと年齢高めの女性と夫という感じ。いざ映画が始まると、この右隣の女性に悩まされることになりました。
どこかで買い物をしたスーパーの袋を手に持ったまま映画を見ていた彼女は、落ち着かないらしく手が動いてる、微妙に。

チリ、チリ、チリ

袋の音がする。ずっと通奏低音?、っていうくらいチリチリいう。
しかも映画はドキュメント風に撮っているため音が小さいし、効果音も大してない。
ああ、気になるよ、チリチリ。
耐える。チリチリ。耐える。チリチリ。ちょっと咳払い。でも、チリチリ。

映画の中で柳楽氏の妹が台から落っこちる(うろ覚え)。幼い妹を事故で失い、柳楽氏は窮する。こどもの頭のなかでフル回転させて考える。窮してどうしようもなくなって、電車に乗って遺体をどうにかしにいこうか行動に移す、という頃合で、映画鑑賞者の自分も窮しきって行動を起こす。

「すみません、ふくろの音がちょっと…きになるんですけど」(※相当の小声)

女性は一瞬「え」という感じで、ただ、謝ることはなく、袋の音量は多少下がりました。
そして、映画が終わってからエンドロール前に右隣の夫婦が退席したのち、左隣の女性に「ほんとにうるさかったわね!」と共感され、励まされ(?)ましたとさ。

映画は柳楽氏の明日はどっちだ?という感じで終わったとおもう。(うろ覚え)

ドキュメント的な、即興の演出によるリアルな感じの持たせ方は好き嫌いが分かれると思う。
是枝監督のほかの作品を観たとき(なんだっけな、伊勢谷さんが天使の役のやつ)、たしかにちょっとこれは受け付けにくい、と思ったのですが、『誰も知らない』はギリギリ良いように思いました。あざとさ、とも捉えられかねない演出がこの題材、この役者さんたちではうまくいってるように思ったのです。
しかし、柳楽氏の将来については、「このこ、苦労しそう」と思ったものです。登場のインパクトが強すぎた。彼は助走なしにハイジャンプの日本記録のバーを超えちゃったようで。足の腱が痛んでもうあんな大ジャンプできないかも、というようなことを感じたのです。

その後は俳優として目だった活躍をしたのかしてないのか、自殺未遂とか若くして結婚したとかそういった仄聞でしか知りません(映画などに出ているかもしれませんが、活動をフォローしていなくてよくわかっていない)。

そんなふくろチリチリ事件のあったシネカノン神戸ももうありません。
ハーバーランドはとにかく集客が難しい立地で数々のテナントが入れ替わり、空き状態になり…シネカノンは本体の営業状態も悪いのかして、撤退(のち、2010年1月民事再生法適用申請)。プロメナ神戸も昔はアローズやシップスなどの有名店が入っていたのに、100円ショップダイソーがぶち抜きで入ったり…それも撤退して、現在は万葉の湯というスーパー銭湯が入っています。

なんだか訳わからないですね。

柳楽氏にも万葉の湯にもがんばって持ちこたえていただきたいと思っています。

柳楽氏には年数経過を感じるのに、同じ映画に出ていたyouさんには年数経過を感じません。彼女は既に十分大人だったし、現在も露出し続けているからですね。

やっぱり継続って大事。

もちこたえていきたいものです。

こんなところで。

『誰も知らない』是枝裕和監督 主演:柳楽優弥
http://www.kinejun.jp/cinema/id/35918

万葉の湯
http://www.manyo.co.jp/kobe/

シネカノン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8D%E3%82%AB%E3%83%8E%E3%83%B3