正月でのいっき読み『海月姫』

お正月はあれこれ読んでいない本も読もうと思っていたのに、結局片付けたり、ぼんやりしたり、TVつけたりしている間に過ぎてしました。ただ、そんな怠惰な年始に唯一まとめ読みした本(マンガだけど)が『海月姫』です。
昔はマンガが好きで、おもしろいマンガ情報求む、というアンテナを立ててましたが、もうすっかりマンガへの興味は薄くなって、黒田硫黄高野文子だけは新刊が出たら買おうと思っているけど、両者とも(とくに後者は)寡作でして。というわけで、最近、全然マンガを読んでません。昔はあんなに好きだったのになー、と思いますが、もうそれは十分すぎるほど大人になった証しでしょう。たくさん持ってたマンガも、どうしても手元に置いておきたいもの以外は結構処分した。このあたりはナタリーの社長のタクヤさんが何年か前の日記で、部屋の物をほとんど処分した経緯を書いてたのを読んで影響されたのもある。どうしても大好きなものだけを買って残すようにしよう、モノは溜めない。
ともあれ、『海月姫』です。たまたま年末にまとめて貸りることができたので、お正月に一挙に読みました。“腐女子”が出てくるとか、女装のきれいな男の子が出るらしいよ、くらいのぼんやり知識で読み始めました。“腐女子”のキャラが立ってて、各人の描きわけがきっちりできてる。腐女子のなかでも、くらげオタクの子が主人公。あとは、三国志おたく、枯れ専、着物や日本人形おたくなどが出てきて、その非コミュ基地、尼〜ずのみなさんが集う下宿を舞台にした物語。それぞれの得意分野を生かして、困難に立ち向かう様は、「カチカチ山」(それぞれの特性による猿への攻撃)みたいなのに通じるっていうか、わりと古典的なお膳立て。映画でもこういうのありますよね。ある共通の敵に対して、それぞれの(それまではムダでしかなかったような)特性が思わぬところで生かされる、とかっていう。
また、腐女子の彼女たちのルックスも、前髪でかくれてた目が思わぬ機会にあらわになった瞬間、あれ、美人じゃね?とか、普段はダサ子なのに、メガネとって、髪もひっつめてるのをちゃんとブロウして巻いて、お化粧もしたらかわいい女子に大変身、でも、ビフォーアフターで周囲に同一人物と気づかれないとか。そんな“かわいいポテンシャル”を持ってるのに本人は気づいてない、とか。イケメンキャラの男子に恋される、でも本人はそれに気づかない、とか。幼い頃の原体験のトラウマを今もなお引きずっている、とか・・・。もう、すべてにおいてクラシック!かつ、ベタ!少女マンガの王道中の王道です。主人公の自己実現と恋愛面での“あがり”→相思相愛、という2側面のストーリィの進行っていうのも少女マンガのクラシック。
でも、そんな安心感で満ちたベタなストーリーがなんでこんなにおもしろいのか、っていうと、そのディテールです。それぞれのおたくのツボを押さえた描き方、かつ、一般的おしゃれ人や“社会”や“世間”を前にしたら硬直したり、目が合わせられなかったり、挙動不審になったり、言いたいことは全くいえなかったり。30歳もすぎて収入源は「仕送り」・・・。彼女たちは、自分の身のほどを分かりすぎるほど分かっていて、客観的にどうだか、っていうのも分かっていて、でも自分ではどうしようもなくて、好きなものの世界で自分と好きな対象だけで安住したがっている様を描いているのが痛い、けど滑稽。
絵柄もこなれてて、キャラの描きわけが凄くしっかりできているので、愛着わいてくる。中でちょっと出てくるブライスマニアの人とか、完全におかしいよ、あの人。見た目と愛する対象への同化っぷりったらない。ふふふ。
連載中でまだまだ続きのあるお話ですが、きっとラストはあぁなるだろうし、恋愛側面ではあの子とあの子がくっつくだろう、とまるで昔の少女マンガのように期待しています。ラスボスのキャラがまだ秘密のベールをかぶってるんで、ラスボスしだいでどうなるかわからないところもあるけど、でも、読者が期待しているラストをむかえてほしいし、そうあるべき!ハッピーエンドまでの過程はハラハラさせてほしいけど、と思わせられる楽しいマンガ。非コミュの尼〜ずには、親近感が・・・。でも彼女らみたいに“熱中できるもの、没入できるもの”がないからなー、自分には。そんな無償の愛をささげられる対象があるって、ちょっとうらやましい、いや、うらやましいのか?うん、うらやましい、すこしね。

海月姫』東村アキ子

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E6%9C%88%E5%A7%AB
http://kuragehime.net/ (アニメにもなったよ)
http://www.youtube.com/watch?v=ryOV92_efBo&feature=related →アニメのOP オススメ!チャットモンチーがOPテーマです。
http://www.amazon.co.jp/dp/4063407446/
※毎回タイトルが映画のタイトルをもじってるのが、いい感じです。
※女装の美男子の実家の大物政治家もキュート。政治家があんなにかわいくていいのか?
関連エントリ:タクヤさんの日記 2009/11/4『捨てた記録』
http://d.hatena.ne.jp/takuya/20091104/1257356734