2010年の試金石映画『告白』

今日の昼にtwitter映画芸術のベスト&ワーストが発表された、っていうツイートを見ました。映画については一般人的知識しかない自分にはこの雑誌の性格はよくわかっていませんが、どうも物議をかもすタイプの選出をするようですね。キネマ旬報のベストが映画芸術のワーストにあがる、というのはよくあるパターンらしく、今年はキネ旬の邦画ベスト2位だった作品を映画芸術のワースト1位に選出していました。それが『告白』です。昨年はこの映画を誉めるかけなすか、ひとつの試金石になっていたな、と思い出させてくれたという意味で、面白いランキングだなと思いました。たしかに、『告白』ほど評価が真っ二つに分かれていたものはなかったような気がする。
貶し派の主張は一言に集約するならば、「これは映画っていっちゃだめだ」という論調だったような気がします(うろおぼえですみません)。タマフルの2010年映画ベストの回でも放送作家の高橋洋二さんがワーストに『告白』をあげておられて、「これがいい映画だということなっちゃうと困っちゃう」というようなことをおっしゃられていた。また「この映画ほど“映画ファン”と“映画ファンじゃない、もしくは映画ファンになりかけの人”の温度差がある映画もなかった」というようなことも。うん、なるほど。
誉める派は原作との比較や、映像表現の手法、女優陣(松たか子木村佳乃)の演技力をほめるパターンだったかな。中島監督の作品はちゃんと観たのは『嫌われ松子の一生』だけなのですが(すみません)、原色ぽい、PVぽい、CMぽい、というか、全体にコントラストが強めでスローモーションなどの多用でいわゆる映画らしい撮り方と少し違うアプローチがあって、そこらあたりの手法が観た者の好みに合うか合わないかで評価が分かれる印象がある。
さて、自分は『告白』を観てどう思ったかというと。まずHIVに対する知識があまりの偏見に満ちていて、この点はまずいな、と思いました。HIVについて誤解され偏見に満ちていた10〜20年前と同じ知識レベルでしかHIVが語られていないし、映画の語りの構造的にもその知識の誤っている点が補正されないので、この映画を観てHIVってこんな風に感染するの?なんて素直に受け取る人がいたら具合悪いなーと思った。ただ、あえてそんな誤解を承知で物語に組み込まれている、かもしれないので、基本的な事実誤認は置いておいてストーリーをおっかけてみる。
松たか子演じる教師はわが子を死なせてしまった後悔と犯人への憎しみだけで生きている。どうやっても取り戻すことができない“娘の命”の喪失によって彼女の存在自体があやうくなってしまっている。・・・そこで、“復讐”を企てる。それが無意味かもしれないと分かった上で、娘を死に至らしめた犯人を追い詰めることに自分の全てを賭ける。この作品のテーマは“復讐”で、犯人の子を追い詰めて罰したところで、あぁ気持ちよかった、悪は滅びなきゃな、というカタルシスはなく、“復讐”のむなしさやその行いの善悪の判断のつかなさ、サンデル教授の倫理的設問じゃないけどどっちを選択しても居心地が悪いというか、すっぱり折り合いがつけられないという感じ。その答えの出ない問いを自分に突きつけられ、観た者に考えさせるような点が、よいと思いました。そういう意味でも、やはり、松たか子の演技が素晴らしい。いろんな人が指摘していたように後半で松たか子がファミレスを出て、歩きながら嗚咽する場面。ここに尽きるな、と。他人事じゃなくて、自分の身内が理不尽に命を奪われて、なおも復讐するな、ときれいごとが言えるのか?そんなギリギリの切羽詰ったというか、他人事じゃなく身を迫るような緊迫感を感じられた。それだけに嗚咽して、うずくまった彼女がすくっと立ち上がるところで、彼女の覚悟や、大事ななにか(倫理だか道徳だかなんだか・・・)を捨てた様子が伝わってきた。
色調を押さえた画面と、ガヤガヤとうるさい中学生のおしゃべりの音量を抑えてないところとかもよかった。でも、中学生のキャスト、きれいすぎ:大体平均点以上のルックスの子を取り揃えていた感じで、そこは韓国映画なみに顔面力の強い子を起用してほしいな、と思ったです。そんなキャストでセット撮影(わざとだと思うけど、あのセット丸出し感)をやると、つくりもの感も増すし、スタイリッシュなPVっぽい撮りかた(まさにダンスシーンなんて、そう)などで、映画っぽさが薄まるのかもしれません。それが鼻につくところもあったけど、飽きさせないカットや撮りかたの工夫された様は、時間を感じさせない展開で、あっという間に終わったなぁ、と物語に入り込める“映画的時間経過”の体感を得られました(でもそういう撮りかたや手法こそが許せない人がいるのもわかるような気はします)。諸手を挙げて絶賛はできない、あれこれ気になる点(犯人の男の子のマザコンがすべての要因とか、同級生の女の子を殺すのもとってつけたようだし、切り株描写はないし)は、ままあるけれど、監督が意欲的に取り組んだ“復讐”へのフォーカスを絞ったやり方、原作を映画の語り口にどう変換するか、という手法と松たか子木村佳乃岡田将生(うすっぺらい熱血教師ウェルテル)の演技やキャラクター造形はよかったですよ。岡田くんは後の『悪人』といい、こういう、うっすい役が上手いです。以上、単なる映画鑑賞愛好家の『告白』の印象でした。

『告白』(日本/2010) 中島哲也:監督 松たか子:主演
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=335612
http://kokuhaku-shimasu.jp/index.html

※参照エントリ
映画芸術ベスト&ワースト http://eigageijutsu.com/article/181634398.html
キネマ旬報ベスト http://www.kinejun.com/kinejun/best10/tabid/64/Default.aspx
※『告白』感想関連
『すきなものだけでいいです』http://sukifilm.blog53.fc2.com/blog-entry-680.html
琥珀色の戯言』http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20100605
『くりごはんが嫌い』http://d.hatena.ne.jp/katokitiz/20100609/1276017428
『Lucifer Rising』http://d.hatena.ne.jp/satan666/20100623/p1
『THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE』http://d.hatena.ne.jp/doy/20100624
ほかにもオススメの記事があればおしえてください。