『イップ・マン 序章』

『イップ・マン 葉問』を観てから一ヶ月ほど。ようやっと『イップ・マン 序章』が公開されるというので行ってまいりましたよ、シネマート心斎橋へ。製作順とは逆の順番での上映になってしまったのですが、ともあれ公開されてめでたいことだと、いそいそと出かけたものの、訪れるたびに変貌と進化を遂げている大阪駅付近のトラップにかかり、ギリギリの到着でした。予告で流れた『処刑剣』に、おぉぅ、と思ったけど次に流れた、『酔拳』の予告がオモロくて…いやいや、ジェイ・チョウさん何してはりますのん…、ジェイ・チョウのために観に来なきゃならんか、と思いましたよ。
ともあれ『序章』です。先に『葉問』を観ちゃったものですから、『葉問』のアレとかアレのいきさつが描かれてるんだろうな、と期待してたところは、全然描かれてなかったです、アレ?最大の関心事だった、サイモン・ヤムってどうしてああなっちゃったんだろうね、とか。やはりこれは製作順番に上映したほうがよかったろうな。『インファナル・アフェア』も時系列順にみたら、ちょっと違和感とか辻褄おかしくね、というところあったものな(でもトニー・レオンがかっこよいからもう全てOK、という気分になる)。
『葉問』ではイップ師匠の苦労する様が最初に描かれている。底辺からはじまり上へ上へ、と向かう縦のベクトルの上昇型ストーリーなので、劇中にいくつもあるバトルは一つクリアすれば、ひとつレベル上がる、みたいな感じで、最後の劇的な勝利で劇中の頂点に達して終了というカタルシスがあるわけですが、『序章』はそうじゃない。バトルはあちこちで散発的/断続的に起こるが、バトルを経るごとに状況が悪化する、断続/波紋広げ型なのです。それはひとつには時代背景もある。『葉問』では戦争後なので、まだ平穏だけれども、『序章』は日中戦争が始まって時代が圧倒的に悪くなっていく設定なので、バトルを経てもイップ師匠を取り巻く環境が好転するはずない。そんな舞台設定もあり、今回の敵役である“日本兵”はどこまでも救いようが無く悪い連中です。『葉問』ではラストバトルで極悪な敵を片付けた後、敵側だったイギリス人たちも中国人を理解し、共感するというところがあるので*1ラストの超気持ちいいカタルシスの一翼を担うのですが、『序章』はそれ、ないからねぇ。日本兵は全然いいとこ無いまま、終わってしまう、観ている自分がちょっと居心地悪いほどに。だから日本での公開が遅くなったんでしょうか。
あちらこちらで起こるバトルがバトルを呼び、時代背景の悪化と共にバトルの内容も陰惨さを帯びてくる。とりわけイップ師匠の10人組み手ですね!ラストバトル以上の盛り上がり場面です。仲間を殺されたことを知った怒れるイップ師匠。まして目の前でもう一人殺され…。『葉問』では暴力はダメだよ、とあくまで穏やかベースだったイップ師匠が、完全にリミッター外れてました。股関節逆にしちゃう攻撃、肩関節逆にしちゃう攻撃、うぉぉ、痛い痛い。でも、これらの復讐劇は、結局さらなる暴力連鎖を生むわけで…自分の家族すらあやうくなるし、関係先(サイモン社長)にも迷惑かかるし、『葉問』にくらべてまだまだ未熟なんですね、師匠も。感情に流された結果、負のループに陥ってる。だから全体に悲愴なトーンでした。それだけにイップ師匠の必死な様も伝わる。容赦ないバトルはかなりの接近戦だし高速殴打もたっぷり観られるし、有る意味『葉問』よりもバトルの密度は濃かったです。ただ、『葉問』のサモ・ハンとのバトルは本当に華やかでしたよね。サモ・ハンのヤラれちゃうところも、よかったしなぁ。『序章』と『葉問』それぞれにポイントが違うので、どっちがどう、というより二作あわせて観るのが一番と思いました。
睫の長い池内君も頑張ってましたし、池内君の腰巾着の鬼畜日本兵のヤラしい演技もよかったと思う(イップさんの奥さんに目をつけるとこなんか、やりすぎ感がサイテー野郎度をアップさせてましたし)。ドニーさんの涼しい顔と怒れるバトルは必見です、『葉問』を観た人は、絶対観なければねぇ、と思いましたよ。

『イップ・マン 序章』(2008/香港)監督:ウィルソン・イップ 出演:ドニー・イェン、サイモン・ヤム、ラム・カートン、池内博之、リン・ホン
http://210.150.25.65/contents/movies/MOVCSTD18094/index.html

※ラム・カートンの拙い日本語かわいかった。これが萌え、というやつか…
※お客さん思ったより入ってたけど、年齢層思いのほか高め。中学男子こそが見て、影響されまくる映画であるはずなのに
※序盤のヨメとのホームドラマ部分、なんともいえんツンデレとか。や、必要必要、うんうん。

《追記》同じ日同じ回で観られていたルシフ師匠(id:chateaudif)に、鑑賞後に映画ノックを受けました。ノックを受けきれない自分に、こんなに良い基礎映画も観てないんかぁ〜、と、課題映画が課されたので、観ないといけません。しかしなんでドリュー師匠の恋愛映画と、「頭文字D」とティム・バートンの3本になったのか、謎です。でも観ます。これも修行じゃ。

*1:ゆっくり拍手からの盛大な拍手