『アンノウン』

公開2日目に観に行きましたよ。ネタバレ全開で感想書きます。
不慮の交通事故で記憶障害となったリーアム・ニーソン演じるマーティン・ハリスさん。いや、全面的記憶喪失になったわけではなく、自分のことや妻のことは覚えている…けれど、それはニセの記憶で、真の記憶を喪失していたわけです。ニセの記憶を信じて行動するものだから、あれこれトラブル続出、まったくお前さんがいるってことは、派手なことが起こるってことだろ*1という状態になる。・・・いろいろ辻褄的にどうかね、というところはありますよ。第一、ほんの数ヶ月の付け焼刃の“マーティン・ハリス”に関わる記憶のほうが、より深層にあるはずの“凄腕暗殺者である自分”、ていう記憶をそんなにも簡単に上書きしちゃうのか。暗殺者集団は、記憶に混乱をきたしたマーティンさんをそんなにすぐに殺そうとするものか(それより掴まえて監禁したほうがよくない?)。記憶障害により現れた本来の彼のhuman natureはすごい“善”なる性質だった…、て本当に?と思ったり。
でも、これもどこかで観たという感じがしていました。すくない映画蓄積からすぐ思い起こしたのは『トータル・リコール』。あれもシュワさんが火星の悪者側(権力者側)スパイでありながら、わざと植えつけたニセの記憶が元の記憶をすっかり上書きしてしまって、敵対勢力の側に自分の身を置き、最後には元は自分が属していた側を裏切って倒すお話だった。本当のあんたはこんなヤツなんだ、とネタばらしされ、自分の信じていた(ニセの)記憶に揺らぎが出たとき、彼はいったいどの信条にしたがって行動するのか。・・・それって、自分は何者でどんな人間なんだ、っていう実存に関わる問題だと思うけど、その実存の本質は、映画だから“善”なるほうに振れるわけだな。そういう意味ではストーリーは王道で、意表を突く展開を期待してると物足りないかな。また、アイデンティティの揺らぎとか世界から自己承認されない不安、ていうのも昔からよくあるテーマのような。
でも結構楽しく見られたのは、中盤のアクションパートが楽しかったから。タクシー運転手の女性のところに行き、泊めてもらう。そこに追っ手がやってきてからのアクション。取っ組み合うが、劣勢になったリーアムさんは相手の目をつぶしにかかる。目への攻撃にめっぽう弱い自分は客席で力がはいって思わずこぶしを握り締める。続くカーアクションパート。ここもある種の伏線で、植物学者のはずのリーアムさんが超絶ドライビングテクをみせる。ドリフトだってガンガン決めちゃう。この人、カタギじゃないな、と、ここらあたりのアクションシーン観たら思いますよね。
でも、ミスリードかなんだか、ちょっと混乱させられたのは、所々挟み込まれるマーティン・ハリスさんの記憶のフラッシュバック映像が、金髪妻:リズとのバスルームでのイチャイチャ場面であること。だから記憶障害になったマーティンは、目覚めるとすぐに、リズが心配してるはず、リズは、妻は・・・と走り回る。このフラッシュバック場面は、実は3か月ほど前に、今回のミッションの舞台となるドイツのホテルにやってきて、バスルームで妻役:リズとシャワールームでイチャイチャした(後、爆弾を設置する、という)時の記憶であることが最後のほうでわかるんですが、執拗なまでにイチャイチャ場面だけが出てくるのですよね。記憶障害になったとき、一番に思い出されるのは、肉体的/身体感覚的な愛の記憶ってことなんかな(精神的に愛し合ったかどうかは不問)。だから、移民女性への感情が、吊り橋効果で愛情的な親しいものになったら、暗殺者だった自分とか、リズ(仮名)とイチャついてた自分とかをうっちゃって、マーティン人格+移民女性を守ろうとするのかなぁ。最後にはアイデンティティ問題は軽々超えちゃって、誰にでもなれる、新たな自分になれる、というシーンで締められる。いろいろあった過去は置いて、新たな人生をスタートできる、ってムシがいいっちゃいいけど。ラストは映画的にはハッピーエンド。普通一般人の自分にとっては、これまでのアイデンティティがチャラになったら、世界に自分の居場所がなくなったようで恐ろしくてたまらないような気がするけど、ミッション遂行のためなら誰にでもなる暗殺者と、戦火の祖国を逃れ新たな生を生きようとする移民の女性なら、IDがリニューアルできたうえ、自分を承認してくれている存在が傍らにいて再スタートを切れるということは、ハッピーエンドってわけだ。そんなふうに消したいほどの過酷な過去や日常がある人生もこの世界にはたくさん存在するのだろうな、ということも思いましたよ(そんな過酷さみたいなのはこの映画では掘り下げはなかったけど)。
『アンノウン』(2011/アメリカ=ドイツ)監督:ジャウム・コレット=セラ 出演:リーアム・ニーソンダイアン・クルーガージャニュアリー・ジョーンズブルーノ・ガンツフランク・ランジェラ
http://wwws.warnerbros.co.jp/unknown/index.html#/home
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18173/

※アクションとかおじいさんがとってもよかったです。最初のほうのハサミに手が届くか、届くか、っていうのの執拗さったら、分かっててもジリジリした、単純な自分・・。
※ドイツのクラブだからテクノがかかってるのかと思いきや、ふつうにニューオーダーの『ブルーマンデー』でほっこりした。