甦れ人生『ショーン・オブ・ザ・デッド』

昨日感想を書いた『カティンの森』を朝から観て打ちのめされたわけなのですが、同じ日に1日限りでテアトル梅田でフィルム上映されることになっていた『ショーン・オブ・ザ・デッド』をどうしても観たくて、暗澹たる気持ちをちょっと引き摺りつつそのまま梅田へ向かったわけなのです。気分の転換が果たしてできようか、とふわふわした心持ちでのぞみましたが、観始めたら楽しくて楽しくて、これも映画パワーだな、と思いました。
上映前にエドガー・ライト、サイモン・ペグ、ニック・フロストからのコメント映像が流れて、その絵面にまず気分が上がる。本編がはじまっても、サイモン・ペグとその脇にいるニック・フロストのコンビの空気、セリフのやり取りや間合いがおかしくてたまらない。小ネタもイヤミにならないくらいの凝り具合(きっとわかる人にはもっともっと楽しめるだろうけど、自分程度の人間にもわかるものもちりばめてる)がいい。あまり凝りすぎると、閉じた内輪ウケに終始しかねないけど、ちゃんと開かれてて気持ちよい。
ストーリーは至って単純。人がゾンビ化しはじめて、そこから逃げるサバイバルがテーマ。ゾンビは体を傾けて足を引き摺って歩いく、人間はゾンビに噛まれることで感染していく、ゾンビは頭を攻撃しなきゃやっつけられない、という基本ルール(その基本ルールを逆手にとって、生きてる人間でもゾンビ風に歩いたら、バレずに紛れられる、などのギャグに繋がってる)。朝とか昼の陽光の下、庭にゾンビ出現とかいいねぇ。そして、対ゾンビのレコード攻撃がひたすらおかしい!どのレコードなら投げていいかの選別がストーンローゼズの2ndとかブルーマンデーの初回盤とか、ダイアーストレイツは投げてヨシ!とか絶妙すぎやろ…!スミスの映像がTVにちょこっと映ったり、ジュークボックスから流れる音楽のタイミングとか選曲もイチイチいいな。
庭、音楽、郊外の家並みのイギリス感も好みでした。ある種イギリスのサバービア映画な感じ。サイモン演じるショーンが出勤するのは小売りの電器店、近所の雑貨屋でアイスや飲み物を買って、夜はパブでダラダラ。そんな日常にゾンビが侵入してくる様子が、一種の極限状況のはずなのにどこかのんびりしてておかしい。また、フィクション上ではよく知られた存在である“ゾンビ”だけど、現実に“ソレ”が現れたとき、“ソレ”に“ゾンビ”って名前をつけて呼んじゃったら、“ゾンビ登場確定!”ってなっちゃうのがヤで“z”で始まる単語を発するな!っていう妙なこだわりがあるところも興味深かった。日常に存在するはずないファンタジー:悪夢の侵入って認めたくないよね。名前がついたとたん“ぞわっ”とするし、フィクションにおいて“z”で始まるアイツらに食われる登場人物たちの悲劇的結末とか思い浮かんじゃうものな。まして自分の肉親がそんな存在になるとか、認めたくもないだろうし。
サイモン演じるショーンとニック演じるエドのラブラブっぷりもよかったです。ふたりラブラブすぎる…。エドはショーンと一緒にいて、ゲームやったり酒を飲んだりするだけで充足しきってるのに、ショーンは彼女にフラれてめちゃめちゃ落ち込んでるんですよね。エドは女性に全く興味なさそう(ホモでもなさそうだけど)。ショーンは一応働いてて社会に帰属してるから、ヘテロとしての自分を意識する部分はあるのかな?元カノも出てくるし、ショーンはそれなりのヘテロ人生を歩んでるみたいだ。でも、男とつるむ心地よさと女と恋人関係である心地よさは別⇒あまいものは別腹感覚で、あまいのも辛いのも両方の腹を満たしたい、というものなんでしょうか、はてさて。
ラストもよかったな。…ロシア映画で「動くな、死ね、甦れ」って映画があって、内容は全然知らないけど、そのタイトルがやたらかっこいいな、と思ってた。このタイトルが、ラストに至ってなぜか思い出された。生きていた時のエドは家かパブでだらだら、ドラッグ売ったり、ゲームに夢中になったり、ソファに固定されてるような動かない人生。そんなエドは、愛するショーンのために一度死に、甦ったんですよ…!はい、強引、強引ってのはわかってますよ。生き延びたショーン&彼女と、一度死んで甦ったエドはどこが違うかな。ショーンと彼女はソファでお茶のんでTVみてダラダラする人生。エドはショーンとゲームに興じることも出来るゾンビ人生。ソファに座って別段何事もなさなくとも、人生は人生。映画全体のバランス感覚、ギャグ、ストーリー含め、エドガーさんの作品では『ホット・ファズ』『スコット・ピルグリム〜』と比べても一番好きかな。楽しくて、笑って、すごい元気出ましたよ。

ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004/イギリス)監督:エドガー・ライト 出演:サイモン・ペッグニック・フロスト、ケイト・アシュフォード 、ディラン・モーラン、ルーシー・デイヴィス
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18635/index.html

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