一目惚れの恋はおそろしい『アジャストメント』

SF映画だと思って観に行ったら、一目惚れの恋成就ミッション映画でした。
と、1センテンスで終わることもできるけど、もうすこし書いてみる。
人の運命を調整する調整局という機関がある。そこに属する調整員が行う“調整”は、コーヒーをこぼさせたり、電話がつながらなくしたり、その程度のこと。その数秒のささいなアクシデントで人の運命は変わることがあり、ひいては地球の命運にすら関わってくることもある。調整員は、まったく普通の人間みたいだけど、特殊能力制御の帽子*1をかぶってて、ちょっと念動力みたいなのはあるみたい。そのへんのSF設定は結構曖昧でして、ほかにも曖昧箇所はいっぱいあって、結構な雰囲気映画だな、と思った(けなしてはいない)。SF的ハッタリっていうか、しつらえがガチっとあるわけじゃない。調整局にしても運命の設計図にしても、あきらかに神やら天使的なもののメタファーだし、『地球幼年期の終わり』なんかも思い出した。
このような設定の場合、主人公はその設計図や世界の裏側のカラクリに気づいてしまった人ということになる。ここからほわほわと思い浮かぶストーリー展開は、そんな陰謀論みたいな説を周囲に訴えるも狂人扱いされるのだが…的な展開(T2みたい)。でもそうはならなくて、マット・デイモン演じるデヴィッドは、一言でも周囲に漏らせば、狂人と思われかねないアイディア(運命は調整局によって調整されてる!)を抱えたまま現実と折り合って生活していく…ようにみえる。でも、デヴィッドはやっぱりちょっとどこか狂ってるんですよ。だって、2度、短時間出会っただけの女性エリース(エミリー・ブラント)とまた出会いたい!と思って3年間同じ時刻の同じバス*2に乗り続けるっていうんだから。これくらい一つの想いに妄執的に囚われた人間じゃなきゃ、調整局員と渡り合えないのだな。
そういう意味でも“恋”、しかも“一目ぼれの運命の恋”の引力はいかに人の心を狂わせてしまうのか、っていうのが主題の映画だなー、と思ったのです。引き裂かれる運命の2人はどんなに引き離され、時間が経っても、あきらめず、艱難辛苦を乗り越えるほどに恋は燃え上がり、すべてを克服したあかつきに2人は結ばれる。途中、デヴィッドが、この恋は彼女を不幸にするかもしれない、と黙って身を引いたり、や、でもあきらめきれない、と婚姻届提出直前になってさらいに来たり、いろいろ忙しい。マット・デイモンが一人でジタバタしてます(エミリー・ブラントもすこしだけジタバタしてるけど)。恋の成就のために神様から試練を与えられ、1、あきらめてもいいけど、それじゃあ現状維持でっせ。2、試練に耐えられなかったら、今より悪い状況に陥りまっせ。3、試練を乗り越えたら、レベルアップしまっせ、の三択ということかな。当然、映画的にはどの選択肢が選ばれるかっていうのは決まってくるわけです。
運命の恋とか一目ぼれってが重要な前提である時点で結構古典的な枠組みの話のような気がする。互いの愛してるって思いは揺らがないって前提だし。昔ながらの『シンデレラ』とか『白雪姫』みたいな枠組み?そして「真実のキスをしたら、もうこの運命は変えられない…!」とか。めちゃめちゃロマンティックだった。運命の恋は止まらないし、この恋は絶対離さない!を満喫できる映画でしたよ。恋愛要素が無いという、原作も読んでみたいな。映画ではうっちゃられてた、人類の未来のかかった一人の男の運命の翻弄、ってところがメインになってるんかな。
※ちなみに、一番心がほんわりとしたシーンは、マット・デイモンが床のちょっとした段差にひっかかってこけるとこでした。
『アジャストメント』(2011/アメリカ)監督:ジョージ・ノルフィ 出演:マット・デイモンエミリー・ブラントアンソニー・マッキー、ジョン・スラッテリー、マイケル・ケリー
http://adjustment-movie.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18097/

*1:どこでもドア使用可能になる帽子なのだ

*2:2度目の偶然の出会いの舞台