読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

アメリカで生まれた2番目のこどもは最初の子を超えられるのか『モールス』

ぼくのエリ 200歳の少女』(以下『エリ』)は原題『LET THE RIGHT ONE IN』といい、スウェーデンストックホルムを舞台に、その美しいロケーション、画、不思議な少女エリといじめられっこオスカーとの繊細で幼くて切ない恋のような感情の交流、キャストの素晴らしいドはまり具合、そしてヴァンパイアものの定番ルールをきっちり押さえた物語も優れていて、とても印象的な映画でした。その『エリ』の原作は『MORSE -モールス-』という小説*1なのですが、同じ小説を原作とするハリウッドリメイクが決定、しかも『キックアス』のヒットガール役で一躍人気者となった美少女クロエちゃんがエリの役(『モールス』では役名“アビー”)出演!ということで楽しみにしていました。その一方で、『エリ』を観るかぎりスウェーデンというロケーションが非常に重要な要素と思われたので、アメリカに舞台を移してハリウッド的にやられるとどんな風に変わっちゃうのかな、という危惧もありました。
今作『モールス』(原題:『LET ME IN』)は、『エリ』のアメリカ公開前から小説の映画化の企画をしていたが、原作の映画化権を買う前に『エリ』がアメリカ公開されたので、やむなくリメイクという形になったらしいのですが、なんだかややこしい。そのあたりの主張は『モールス』のオリジナリティの主張でもあるんだろうけど、『エリ』という作品が先行してあり、リメイクという位置づけであるからには間違いなく影響はあるわけですし、観る側も、どうしても『エリ』と比較したくなる。それは不幸なのことなのか、どうなのか…、ともあれできるだけ、先入観なしに観ようと思いつつ出かけました…が、やっぱりイチイチ比較しながら観てしまった。冒頭の入りが違うな、とか、時代設定はレーガン政権ってので冒頭にわかりやすく示してるな、とか、この描写はこう変えたか、とか。そうして観終わった直後思ったのは、「なんだかあっさりすっきりわかりやすくなっちゃったな」という一語で、これに尽きます。セリフでわかりやすくなっているところや、脚本の構成や描写でわかりやすくなっているところが色々とあった。イチイチ挙げるのもなんだし(なによりうろおぼえだし)、ということで少年:オスカー/オーウェンを例にあげてそのニュアンスの違いを思い出してみる。
『エリ』ではオスカーの繊細さや危うさ、さみしさを細かいディテールの積み上げで描いてました。オスカーが同級生にいじめられている描写は、何シーンか小さい描写を重ねている。母と2人暮らしで、母に愛されてはいるけれど、オスカーが雪に降こめられた静かな家に一人でいる場面も多く描かれている。そんなディテールの積み重ねで、学校でも家でもオスカーが孤独感を抱えている様子がわかる。ほか、オスカーが密かに持っているナイフを夜の庭で振るうところ、犯罪記事を切り抜いて収集しているところなど、ちょっとした断片の描写の集積が、オスカーのキャラの確立に大きく寄与している。一方『モールス』においてはオーウェンは「女の子みたいなヤツ」といっていじめられている描写→お店でお菓子を買ったときにふと小さなナイフが目に入る→そのナイフを木に向かって振るう、と時系列で大変わかりやすい。いじめられてる理由もちゃんと述べられてる。また、オーウェンの母は宗教依存が高い人と設定されていて*2、それが家庭の複雑さから生じる孤独感の裏付けの設定になってる感じ。それらの描写は映画を理解しやすくしているけれど、『エリ』の持つ“雰囲気”にはどうしても達することができない、という今作の限界(と言ってしまう)になってしまってるな、と思いました。それがアメリカ映画らしい、といわれればそうかもしれないけれど。
あと、かなり残念だと思ったのは、途中でクロエちゃん演じるアビーが襲い掛かる女性の設定が大きく変わっていたのですよね。『エリ』では女性はちょっとくたびれた中年女性、という感じで、彼女と腐れ縁みたいな呑んだくれ男が、エリに襲われて瀕死になった女性を必死にぼろ泣きしながら助けようとするんですよね。この泥臭い中年カップルの愛情物語がちゃんと伏線もはったうえで描かれていて、すごくよかったんですよ。しかもネコ猫ニャーニャー襲撃描写 *3、人の血が欲しくてしようがなくなってしまった自分の変化への恐れと葛藤の末、彼女自身が選択した結論としての人体発火場面など、大好きだったディテールがあっさり削られてたのが残念でした*4。しかしなぜよりによって、しょうもない小奇麗なブルジョワ的カップルみたいな設定にしたのか…
でもオリジナルより好きだったところもあって、前半大活躍のエリ/アビーの保護者役については、『モールス』のほうが好きでしたね。おっさんの悲哀度がアップしていた。あと血液調達のための人を昏倒させる手段(死後だと血液はほとばしらないから、意識を失わせた状態で血液採取しなきゃならないのがこのお仕事の難しいところですね)。車の後部座席に粗末な黒ビニールをかぶって隠れるおっさんの悲哀よ…。そして、おっさんが血液採取ミッションに失敗して車暴走のところは、撮り方も含めていいな、と思いましたよ。病院のくだりもよかった。
クロエちゃんは暗鬱さを帯び、性別をあいまいに感じさせるな表情なども頑張っててよかったけど、『エリ』における、裸でオスカーの背中に寄り添うところや悪評高いモザイクシーン(性別についての重要な描写)などが、かなりあっさりした描写になってしまってたり、ばっさり削られたりしてて、それがなぁ…と。あと、クロエちゃんはキレイすぎた。エリのどこか野性味のある感じがぴったりだった…とやっぱりここでも比較してしまう。エリの野性味は、吸血行為のときの彼女の姿とすんなりリンクするけど、クロエちゃんは、特殊効果で“人ならざる吸血鬼感”増してみたよ!という感じでした。
『エリ』との比較ばかりになってしまうけど、ラストのプールの場面も『エリ』のほうが好きです。エリの本能に任せた行動の凄まじさとオスカーを守るためならどんな残虐なこともする、というのが静かに残酷にしっかり描写*5されてましたから。きっと『エリ』を観ずに『モールス』単体で観たら印象はもっと違っていたと思うけど、こればかりはどうしようもない、だって先に観ちゃったものな。ある意味『エリ』は雰囲気映画でもあった(いい意味で)ので、それを凌ぐのは難しいことなのですね。だからおっさんの車暴走とかのとこは気に入っても、映画全体で物足りなさを感じてしまったのでしょうか。でもシンプルでわかりやすい脚本であることは、ある意味美点ではあると思いますし、画的にも固定カメラによって静謐な絵画的な感じを醸し出すように撮れているな、とも思うのです…けど…ね。『エリ』と異なるアプローチならともかく、おなじテイストでの表現としては、最初の子の背中を超えるのはなかなか難しいのかな、ましてアメリカで一般公開する作となると制約もあろうしな…など、やっぱりオリジナルに引っ張られた鑑賞体験になってしまったのでした。

『モールス』 (2010/アメリカ)監督:マット・リーヴス 出演:クロエ・グレース・モレッツ、コディ・スミット=マクフィー、リチャード・ジェンキンスほか
http://morse-movie.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18394/

Let Me in [DVD]

Let Me in [DVD]

ぼくのエリ 200歳の少女 [DVD]

ぼくのエリ 200歳の少女 [DVD]

オーウェン君はかわいいのですが、途中で「魔太郎みたいな前髪になってる瞬間があるなー」と思ってました。
オーウェン君はかわいいのですが、『エリ』のオスカー君の美しさはビョルン(『ベニスに死す』)以来の衝撃だったんで、オーウェン君でもちょっと物足りなかったかな。
※あと、肝心のモールス信号、あんまり生かせてなかったんじゃ…

*1:未読です

*2:『キャリー』の母親的…

*3:大好き

*4:『モールス』は人体発火シーンはあったけど、それに至るプロセスが全削除でした

*5:切り株的にも、スピード描写的にも