『ツリー・オブ・ライフ』

公開がはじまって自分のtwitterのタイムラインに流れ出した感想はまったくダメ、というのと、いやこれいいよ、っていうのとかなり分かれていたので、自分はどんな風に思うんだろうか、と楽しみにして観に行きました。
冒頭はまずヨブ記の引用〜主人公ジャックの弟の死から始まる。それからしばし、宇宙、地球、海、炎、風、空、大地、生命の芽生え、といった映像がつづきます。そこにウィスパーボイスで宗教*1っぽいような哲学っぽいような、なんだか高尚で深淵な感じのナレーションがぽそぽそ乗っかっています。『2001年宇宙の旅』を思い起こさせるような映像や、地球創造系のいろんな場面描写、はては恐竜まででてきます。映像美が云々といわれるとおり、たしかにクオリティは高いけど、どこか現実離れしているんですよね。NHKのドキュメントでみるような自然科学的な描写とは違っています。とくに恐竜の造形については、ジュラシック的リアリティの追及というよりどこかファンタジーぽい…なんというかアニメっぽい造形でしたね(なぜかいまうろおぼえの自分の脳内を検索をするとラッセンぽい絵が浮かんでくる…)、恐竜なのに喋りだしかねない感じというか人間と同様の感情を持っていそうな造形というか。いまのCG技術なら、もっとリアリティをもった造形もできるだろうに、惑星にしろ炎にしろ恐竜などの生物にしろ海のあり方にしろ、巨大すぎたり、現実離れしていてなんだか全体に過剰すぎる。その原因は、ありのままの自然を描こうとするのではなく、“誰か個人のアタマのなかにあるヴィジョン”だからなんだろうな、と思いました。誰のアタマかというと、一応はショーン・ペン演じるジャックということになるんでしょうか、まぁ、実際にはテレンス・マリックのそれなんだろうけども。それは“神”が万物を創造した、というキリスト教宗教観に基づいてるのかなあ…。
冒頭約30分くらい続く壮大な映像に、すごいなぁと思いつつ、気持ちよくて、つい、うとうと眠りを誘われ、覚醒と無意識のあわいを行き来していましたけれど、その後、ブラッド・ピットが登場する段になると、その物語に集中できました。まず、人をきちんと撮りつつなめらかに移動するカメラワークが美しかった。その神の視点のように自在なカメラワークで捉えられ展開する物語は、既視感があるほど普遍的なもの:ある父とその息子の物語で、これはきわめてプライベートな体験です。人間は“個人的な体験”を大きな世界の営みに関連付けたり、宇宙や地球の歴史に位置づけたりしたくなる生き物なんでしょうかね。
厳格な父とその抑圧に反抗する息子という軸に、弟、火事により後頭部に火傷痕を負った友達、町を歩く身体障害者、などが主人公たちを取り囲む。それらは直接に主人公になんらかの関係を持つわけではないものも多いけど、なんとなく世界の不穏さとか、多様さとかを表しているみたいに感じましたね。無意識にもそれらはジャックの人格形成に影響してる、はず。…人はどうしても自分中心で(あたりまえ)、自分の眼からみて自分で思ったようにしか世界をとらえられないし、自分の周囲にある環境がその価値観の形成におおきな影響を与えたりするわけで。ショーン・ペン演じるジャックの眼からみた世界を観客も体験するのがこの映画を鑑賞するひとつのポイントだろうな、と思いました。個の視点に寄り添うことで、見えてくる/体験できることがある、はず。きっと、観る人によって「あぁ、こんな父親とか母親像、わかる!少年期のこんな感じあるある!」などと心を揺さぶられ、ある断片を観ただけでたまらない感動を覚えたりもするでしょう。…結局、この映画は単純に言い切ってしまうと、“三つ子の魂百まで”映画なのかな。ジャックは自分が育った家庭での教育や環境に縛られて大人になり、大人になりきった彼が思いめぐらせるのも結局じぶんの原点であるこどもの頃のこと。今の自分を形成した基礎は、幼少期を過ごした環境、それも主に家族の影響が多大にある、ということ。それを営々たる宇宙の創造の始期より連なる物語として描くということ*2
それらの物語は男の物語に終始していました。ブラッド・ピット演じる厳格な父のこどもは3人とも男の子だし、彼らの友達も男の子ばかり。家で支配的なのも父であって、女性は母くらいしか登場しない*3。大層凝った、色使いの鮮やかでかわいらしい多彩なバリエーションの服を着て出てくる母親はどこか現実の存在じゃないみたい。そこからしても、これはやっぱり“誰かのアタマん中のヴィジョン”てことなんだろうな。人の記憶や内的世界はきわめて個人的体験に基づき形成されるわけで、結果としてどこか捏造とか嘘とか誇張は混じってくるだろうな。この映画の主人公:ジャックの記憶内では女は母性の象徴でしかないように感じました。自分としては、男=人間、女性=母、な世界にどっぷりはまり込むことはちょっとできなかった。でも、すばらしいクオリティの映像を劇場の大きなスクリーンで観られてよかったな、と思いましたよ。

ツリー・オブ・ライフ(2011/アメリカ)監督:テレンス・マリック 出演:ブラッド・ピットショーン・ペンジェシカ・チャスティンほか
http://www.movies.co.jp/tree-life/home.html
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18464/

The Tree Of Life (Original Motion Picture Soundtrack)

The Tree Of Life (Original Motion Picture Soundtrack)

※はじまって40分くらいのとこで出ていかれた二人連れもいました。これから、ってとこなんだけどな。

*1:もちろんキリスト教

*2:ここにノレるかノレないかで評価が全然違うような気もする

*3:一瞬クラスメートの女子が出てくるくらい?