ミシェル・ヨー主演『レイン・オブ・アサシン』

ジョン・ウーが共同監督に名を連ね、ミシェル・ヨーが主演した『レイン・オブ・アサシン』を観ました。
明王朝時代、謎の暗殺組織・黒石に所属する女刺客の細雨(シーユー)は、忌まわしい過去と決別するため、古代武術の達人である達磨大使のミイラを組織から奪い、脱走する。それは手に入れた者に強力な力と、中国武術界の覇権をもたらすと言われていた。やがて名前を変え、都会で暮らし始めた細雨は、心優しい配達人の阿生(アシャン)と出会い、結ばれる。しかし、組織の殺し屋たちが迫っていた……。(goo映画より)
達磨のミイラは胴体部分で二分割されていて、このうちの上半身を細雨が持って逃げています。この上半身+下半身が揃うと具体的にはわからないけど何かすごいらしく、武術界の覇権を得られるのだ…!ということで、凄腕暗殺組織“黒石”を中心とするこのお宝争奪戦がまずひとつの軸。顔も名前も変えて、つまり過去を捨ててやりなおそうとする細雨(ケリー・リン⇒ミシェル・ヨー)は阿生に見初められて夫婦となるのですが*1、細雨は過去の自分を偽っているわけですから、それがいつバレてしまうのか…という恋愛にまつわる側面がもうひとつの軸となっています。この武侠と恋愛のふたつの軸は物語が進展するにしたがって、新たなドラマがどんどん展開していくのでダレることなくすいすい観られました。キャスト陣も豪華で、主役のミシェル・ヨーの剣をつかったアクションは所作も決まってかっこよかったです。あとはワン・シュエチーがよかったな。首領としての風格も十分だし、最後の方の展開では大活躍でしたよ。
細雨に肩入れして観ていくことによるミスリードが後半の展開のキーになっている構成なので、前半はふたりのなれ初め〜素直な恋愛的ストーリーに見えていたものが、後半になると段々違う側面が明らかになりつつ武侠的な要素が前面に出てくる、という構成がおもしろかったです。単純ですが、物語が進んで、どんくさい感じのヤツが実は…という、燃えるパターンのところは気持ちよかったな。そしてもうひとつの見どころは黒石の首領:転輪王の正体。最初からこの首領、なんでこんな声なんだろ、と気になってたナゾも解決しますよ。しかし、最初は武術界の覇権をもたらす云々、という大層なお題目だったはずの達磨のミイラ奪取の目的が、結局、転輪王が“なんでも叶う魔法のミイラ”を極私的目的のために欲してただけ、に転じていく…。いや、でも卑小でもなんでもないな、重大事だよ当人にとっては。しかし武術界の覇権なんて大きな話より超個人的問題のほうが優先するというは…あぁそんなものかな、という気がする。世界がどうなろうと、自分の大問題のほうが優先されるという真理…?転輪王にとって、すべての行動の原動力になるほどのコンプレックスだか積年のルサンチマンの原因を軽く笑った女(バービー・スー演じる“黒石”の刺客で転輪王の弟子:綻青)は、絶対許せない!てなるわけだものな。
以下ラストまで触れますが。
阿生のために、阿生をかばいわが身を犠牲にしてまでも転輪王と戦おうとする細雨。かつての師匠と弟子の死闘!しかし過去の因縁と業を断ち切ろうとする彼女のほうが、男性機能回復の欲望に燃える転輪王を上回り、勝利します。でも細雨も瀕死状態。“これは、阿生が達磨のミイラをつかって細雨を生き返らせるパターンのヤツだな!”と思ってたら、あれ、そのことに触れもせず、細雨は阿生の腕の中で意識をなんとか取戻し、ふたりして去って行ったよ。…達磨!どこいったん…。あと、宦官ゆえ男性機能がないことをバカにしたために、転輪王に土の中に埋められかかってた綻青はどないなってん…。
つじつまはともあれ、楽しかったしおもしろかったですよ。阿生の実はキレ者、っていうのと、転輪王さんの宦官設定がわかったときは「キタコレ!」て気分でした(何がキタんだか、我ながらよくわかないが)。ワン・シュエチーの宦官演技もよかったです。あと、細雨と阿生が近づいていくのを、驟雨のできごとの積み重ねで描いているのも、ちょっとロマンチックだなこれ、と思ってました*2。なんだか現実にはない、夢のような、アコガレ*3の世界での出来事のようで、雨にけぶる中で距離を測りながら佇む2人の様子を観ながらちょっとほんわりした気分になりましたよ。

『レイン・オブ・アサシン』 (2010/中国=香港=台湾) 監督:スー・チャオピン、ジョン・ウー 出演:ミシェル・ヨーチョン・ウソン、ワン・シュエチー、ショーン・ユー、バービー・スー
http://www.reignassassins.com/index.html
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD18850/

*1:実際のキャストの年齢差は11歳ですが、歳の差なんて無問題

*2:ふたりちょっと董がたってる感じでもまぁいいじゃん、ということにして

*3:宇多丸氏のラジオ番組タマフルを参照のこと:平たくいえばこんなシチュエーションあったらいいな、という妄想です