大阪アジアン映画祭 『星空』を観たよ

さて、大阪アジアン映画祭で観たシリーズ2本目は『星空』です。台湾の新鋭トム・リン監督作品。原作*1は人気絵本作家ジミー・リャオの絵本だそうですよ。…鋭い方ならピンとくるかもしれませんね、そう、今作を観たときにいろんな映画の影が思い浮かんだのですが、そのうちの一つジョニー・トー監督の『ターンレフト・ターンライト』の原作もジミー・リャオだとのこと!なるほどなー。ひとりの男性とひとりの女性が一度出会い、再び出会うまでの寓話のようなお話…どこか『星空』と共通点がありますよ。うん。
13歳の少女が主人公。親はどこかしっくりいっておらず、家庭内には不安定さが漂う。彼女は大好きなおじいちゃんの元へ行こうともするが、その勇気もなく居心地が悪そうにしている。ある日向かいのアパートでクリスマス聖歌に合わせてリコーダーを吹く少年を見かけるが、彼は翌日転校生として彼女の学校に現れる。
ストーリーを書くのが難しくて、とにかく観てほしいな、という映画です。中学生の頃の不安定さ若さ、青さ、瑞々しさと傷つきやすさ、淡い恋のような思い。それらが詰まった映画です。また、思春期のイマジネーション豊かな少女のイメージのヴィジョンがすばらしいCGで再現されています。この箱庭的な世界の構築がガッチリできていて、この甘い甘い映画の中にどっぷりと浸ることができますよ。このあたりなんとなく『アメリ』なんかも思い起こしましたね。撮影がよくて画がとにかくキレイ。とりわけ冒頭がすばらしくて、父母が喧嘩をして不和な空気に耐えられなくなり、田舎のおじいちゃんの家に行こうとする主人公の少女が、駅で不安げに座っている。…父母がひょっとしたら心配して迎えに来るかも?いや来ないかも?おじいちゃんのところへ行ってしまおうか、いや、父母が来るかも…という逡巡。フト見上げた少女に幻影の雪が降ってくる。降り積もる雪、やがて雪のひとひらが少女のほほに落ち、ふっと融けて涙となりぽたりと落ちる。このシーンの美しさ。
文具店での万引きエピソードや少年とふたり出かけた森でのエピソード(廃墟で一夜を明かすときの着替えの場面とか)などイチイチ瑞々しすぎてまぶしいほど。甘いんだけれども、どこか泣きたくなるような痛切さもあって。それは“13歳”は二度とは戻ってこないっていうことを自分がよく知っているからだと思う(や、あたりまえなんだけど)。かつて自分にもあった13歳。映画内の彼女とは全然違う13歳でしたが…でも二度と戻らないということがなんだか痛切に感じられていとおしい。そのことが彼女のナレーションで語られるラスト近いところでなんだかまた泣いてしまった。
父母の不仲もあまり詳細は語られないけれど、よくわかる。二人はどちらも“悪く”なんかない。でも決定的に“違ってしまった”。夫婦としてやっていくことがどうにもムリになってしまった、ということがわかります。それは少女と母がレストランで食事する場面。急に立ち上がり母が娘に「昔おしえたあのダンスを踊ろう」とレストランの中で踊り始める。踊りながら母は耐えきれず、泣き始める。もう父母の仲は決定的にダメになってしまったんだな、とわかりましたね、このシーンで。ちなみにここで踊るダンスはゴダールの『はなればなれに』のダンスでしたよ*2

13歳のパートで終わってもよかったかな、という気もしたのですが(ここでもかなりグっときた)、その後のパートで絵本ぽさ全開な物語のすわりの良さがあったような気もしますね。グイ・ルンメイがワンポイントながら印象的な出演でした。すべてを見せてしまわない余韻のよさをわかってる監督だな、というラストの演出。これもゼヒ日本公開してほしいです!かわいいくて切なくて、多くの人に見てほしいなぁと願わずにおれない素敵な作品。
『星空』(2011年/中国・台湾・香港)監督:トム・リン (林書宇) 出演:ジョシー・シュー、レネ・リウ、ハーレム・ユー、グイ・ルンメイ、リン・フイミン
→とにかく予告を見てもらえばその画の美しさがわかるかと。
※音楽はworld's end girlfriendでしたよ。クレジットみて驚きました。
※主役の少女は『ミラクル7号』で少年役だったそうですが未見。今作ではPerfumeかしゆかぽい感じで、長い手足が印象的な雰囲気のある女の子でしたよ。
毎日jp『銀幕閑話:390回 「星空」のトム・リンに聞く』

*1:とはいっても映画は原作をかなり膨らませて脚色しているようですが

*2:少女が「お母さんが昔映画でみたダンスだって」と言ってたのでわかりました。そしてお母さんはフランス憧れな感じのキャラ