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緊迫の2時間『別離』

イランでもきっと中〜上流手前くらいの夫婦なんでしょう。夫婦ともに仕事を持ち、何部屋かあるマンションに住み、娘にもしっかりとした教育をほどこしている。社会的地位もあり、収入もそれなりに得ている二人は、それなりの主義主張もあり、よりよく生きるための価値観をカチッと持っている。それだけにその価値観や思いに相違が生じたときはやっかいで、それが“こども”に関することならなおさらでしょう。
イランに住まう夫婦。妻シミンは娘の将来を考えて外国への移住をしたいと考えているが、夫ナデルはアルツハイマーを発症した老いた父の介護を理由に妻の提案を断る。ようやっと取得した移住権があと40日で失効してしまう、と焦る妻は離婚を申し立て、話し合うもやはり平行線をたどるため、別居することとする。別居にともない父の介護のために義姉のつてを頼ってある女性を雇うことにするのだが…
容赦ない映画です。人間ゆえにもつ弱さや融通のきかないところ、意地を張ったり、そうして段々と負の連鎖が連なって行って、もはや軌道修正ができなくなってしまう。あるよねあるよね…とため息交じりに言いたくなるような、そんな人間関係の在り様を見せつけられました。これって自分のなかの『レボリューショナリー・ロード』枠なんですよね…あれも壮絶でありました。ともあれ、これは音楽がなかったせいもあるでしょうが、生活音がよりリアリティを増し、音のひとつひとつ、セリフや視線、行動すべてが少しずつ「なにか悪いほう」に転がる方向へ寄与しているようにしか感じられず、その緊迫感に胸がキリキリと締め付けられていくようでした。キリキリ。
誰もが悪人ではないけど、誰もがちょっとずつ悪い。この映画の中に出てくる誰もが、(その深さの程度の違いはあれ)傷ついていている。正しいこととそうでないことの線引きがパキっと簡単にはできない現実をそのまま見せつけられる映画です。そうして前半になにげなくカメラがとらえていたことが後半に意外なほど“効いて”きて、思いがけない風景が開けるような瞬間があって、この映画的マジックにおもわず息をのむ。人間のもろさや弱さ、それゆえに助けを求めたり寄り添って生き、究極的には“幸福”を求めるのは同じなのに、決定的に違ってしまう哀しさが鮮明に見えてしまう…これもこの映画の持つ強度ゆえでしょう。でも観ていて心が苦しくなってくるような感じ。息苦しいような…
やすやすと再見はできないけれど、完成度の高い映画。とりわけ介護人としてやってくる女性の演技はすばらしかったですね(あ、お爺さんの演技もすごかったな)。しかし、宗教は心の平安をもたらすものでもあるんだろうけれども…。本当に世界は広いし、いろいろの価値観があるものだな、とあらためて感じましたね。
『別離』(2011/イラン)監督:アスガー・ファルハディ 出演:レイラ・ハタミ、ペイマン・モアディ、シャハブ・ホセイニ
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