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フランス映画未公開傑作選『刑事ベラミー』『ある秘密』

フランス映画未公開傑作選いってきました。3本中2本鑑賞です。
『刑事ベラミー』(2009/フランス)監督:クロード・シャブロル 出演:ジェラール・ドパルデュー、 クロヴィス・コルニアック、ジャック・ガンブランほか
楽しみにしてたシャブロルの『刑事ベラミー』からみましたよ。奇妙な映画。いくつものプロットが平行し、絡み合い、進んでいきます。
・回想録まで出版しているらしい高名な刑事ベラミー。妻とともに南仏にバカンスにきている。
・ベラミーの腹違いの弟がやってくる。兄と違ってうまく人生を送れていない厄介なオーラをまとっている。幼いころ、弟を殺そうと試みたこともあるベラミー。彼と弟の愛憎入り混じったやり取りや距離感。
・ベラミーは妻を愛してる。彼女に甘えまくっている。ベラミーを飼い犬のように甘えさせる妻。でも、ベラミーは妻と弟の間に何事があったんじゃないか、とつい疑ったりもしてしまう。どんなに愛していても彼女のすべてを知りえないということへの不安感。
・バカンス先でおこっていた保険金殺人。逃走中の犯人がベラミーにコンタクトしてくる。そこから犯人の妻、愛人が絡んできて、さらにその事件を追っている刑事まで絡んで、被害者の恋人まで登場してこんがらがって。
ほかにも要素が盛りだくさん。不思議な場面転換やおもいもよらぬリンク、大胆な省略や急展開としつこいほど丁寧に描かれるベラミーの妻ラブ描写とか、どこか奇妙なところが心にひっかかりを生じさせ、それがとても映画的だと感じる。こういう雰囲気がシャブロル作品の大変な魅力になっている。普通なら保険金殺人の謎を解明していくベラミー刑事、のプロットになりそうなのに、タイトルどおりベラミー刑事を中心として一見関係のない物事が同時並行に進むところがおもしろい。現実は普通の映画のようにひとつのプロットで進むわけではない、家族の問題は配偶者、仕事、その他交友関係etcが並行してすすんで、思わぬところで影響したりしてるじゃん、そういう人生のありようが映画になってる感じなんだな。
が、結局のところこれは「愛」の物語らしい。弟との愛憎入り雑じるなかでの愛情の問題/血縁者との愛。妻という縁あって婚姻したものの他人である女性との間の愛。保険金殺人を犯した男の妻、愛人との愛。保険金殺人の被害者となったホームレスを愛してた女性の愛。シャブロルはふわふわと頼りなく実体のみえない「気持ち」「心情」を描き出すのに長けている。そのために殺人などの事件を劇映画上盛り込んでいるのだけど、あくまで主役は人間、そして人間の心情。そのことを改めて感じましたね。ラスト近くのある歌の使い方もちょっと現実離れしたぶっ飛んだ感じがなんともたのしい。これは同監督の『引き裂かれた女』のラストとかもちょっと思い出したな*1
『ある秘密』(2007/フランス)監督:クロード・ミレール 出演: セシル・ドゥ・フランス、パトリック・ブリュエル、リュディヴィーヌ・サニエほか
まったくの予備知識なしに観ました。意外にもホロコーストに材をとったお話だった。セシル・ドゥ・フランスとサニエちゃんの共演が見られますよ。これはとある男性の回想の物語。彼の両親に隠された「ある秘密」が主題です。
子どものアイデンティティは幼いころはとりわけ大きく両親からの肯定で形成されるんじゃないかな。お前は愛されてる、お前は唯一無二の存在であるっていう。でも主人公は小さいころからなぜかそう感じられてなかった。病弱な自分は両親の期待にこたえられていない…そこで彼らの期待にこたえられるようなイマジナリー・ブラザーを作り出してしまう。でも、そのイマジナリー・ブラザーはなぜか両親には辛い記憶につながるようなものだったのである…
第二次大戦前〜大戦中のフランスのファッションやプールでの水着姿の人々などの風俗描写もキレイでステキです。その美しいロケーションのなかで展開される「ある秘密」にまつわる物語はつらく悲しいものです。でもサニエちゃんがああいう行動をとったのは、なんだかわかるような気がした。女性は自分の命にかえても、ある感情を優先してしまうことがある…それにしても彼女の選択に巻き込まれる子どもがかわいそうすぎるのだけど。それは、何にもましてこどもを優先するという母性優先説じゃなく、女性としての自分の感情を優先することもある、ということなのだよね。夫の本心が垣間見えてしまった瞬間、妻は絶望して自分がこの世界にいる根拠まで失われてしまったように思ってしまう。
それでもなお、妻への罪の意識がありつつも夫は一目で恋に落ちてしまった義兄の妻への恋をとどめられない。この夫がセシル・ドゥ・フランス演じる義兄の妻への視線の送り方がいやらしい。まったくもって色目とはああいうことをいうんだろう、と思う。さすがフランス人、愛に生きるフランス人は違うな、となぜか無根拠に納得。
現代パートをモノクロに、回想パートをカラーにしたのもわかるように回想シーンがみずみずしい。現代パートは地味すぎな印象だけど、それは過去パートを際立たせるためでしょうな、昔のフランスの風俗に興味のある人にもオススメしたいな。そして、ホロコーストの歴史がいかにヨーロッパ人に刻み付けられているかも再認識しましたよ*2

*1:『引き裂かれた女』のほうがはるかにぶっ飛んでる感じですが

*2:最近でも『サラの鍵』『黄色い星のこどもたち』とかもあったしね