『アウトレイジ ビヨンド』

前作も好きだったので、今作も公開二日目に観に行ってきました。連休中とはいえ満席でびっくりした。監督が宣伝にがんばってたみたいで、その成果もあったのかな。
前作は殺し方オンパレードなところがあって、そのヴァリエーションもよかったです(『ドリームホーム』と同種の楽しみ方)。また色気のある男が多くて、とりわけ桔平がすばらしかった。もう終始かっこよくて、そしてあの殺され方ね。あの一連のシークエンスは映画的で美しくて残酷ですばらしかった。夜明け前の暗い海沿いを斜めにとらえた固定カメラで車をぶぅんと走らせるとすこし遠くで、きわめて静的に絵のようにふっとぶ桔平の体をとらえる。そして並行横移動で彼の死体へ近づくカメラのあのシークエンス…さて、ビヨンドはどんな美しいシーンがあるかな、と期待してた。
殺し方のヴァリエーションは減っていて、シンプルに殴る、撃ち殺す、刺すなど。その中で前作の桔平級の素晴らしさを見せたのは、前作に引き続き登板の石原を演じる加瀬君でした。前作の小賢しい小悪党感もよかったけど、今作でキャンキャン吠える室内犬みたいな加瀬君の小物感、器の小さい男っぷりもすばらしい。内心裏切ってしまった大友の報復が怖くてしようがないから、「なんでチンピラ一人殺せねーんだよぉ!!!」と怒鳴りまくる。そして大友に「野球しよっか」と誘われてからの、あれはよかったね。椅子にくくりつけられて、足を心なしか力なさげにパタッパタとさせる加瀬君…最高であった。撮影も画も構図も最高。
ちょっとさみしかったのは、前作で大活躍だった白ジャージが服飾としてあまりでてこなかったこと。会長を撃ち殺した三浦友和が次のシーンでそれまでのパリっとスーツから会長職の白ジャージになってたとき笑ったもの。そういう小ネタというか前作でちょいちょい見られたギャグ(とりわけ大使は存在自体がギャグだった)要素は減ってました。
関西弁はちょっと微妙なところはありましたが(とりわけ花菱の会長)、塩見三省はよかったですねぇ。自分は巻舌ができない人間なので、彼のように素敵に巻き舌も駆使してドスをきかせてるのがすごい爽快だった(いや怖かったんだけどね)
で、観てて、観客の全員が思ってたと思うのですよね。一番悪いのは、アイツじゃん、と。で、それだけにラストは超気持ち良い。と、考えると今作って大友が主人公っていう感じがしないのですよな。大友はいってみればストーリーの都合で立居ふるまう狂言回しだった。こう見せたい、ってシーンをつなぐために動いてる感じだったな。だけれどもラストのあの行動は大友の心の底から湧いて出た怒りを感じさせる自然の帰結にちゃんとみえたから。それがラストで観客の溜飲がさがる思いの所以では。まぁ、前作でも一番悪いのはアイツだったしね、積もり積もった悪の成敗、って感じで案外“勧善懲悪”な終わりだったよね。
しかし前作以上に人が死にすぎ。人の命は軽い軽い。死体コロコロ。そんなもんだろ、人間、所詮そんなもんだろ、という価値観。それは人が持つ思いや心の底では思ってても倫理的に口にはしない価値観。戦争で人を大量殺人するのとどこがちがう?そんな命も親や係累があって、かけがえのないはずの命なのにね。命、大事、絶対、という誰も反論できないまっとうな意見がありつつ、どこかで人がゴミみたい(fromラピュタ)に扱われてるトコロだって地球上にはたくさんある。新聞記事にすらならない残酷なできごと。所詮地球の何億もの歴史のなかで生起する命の生き死に、差異はなかろうよ。
鈴木さんの音楽もやっぱりよかったよ。あと迫力の顔面力賞は中尾彬だね。
アウトレイジ ビヨンド(2012/日本)監督:北野武 出演:北野武三浦友和西田敏行加瀬亮小日向文世松重豊中尾彬塩見三省新井浩文、桐谷健太、神谷繁、白竜、高橋克典名高達男光石研ほか
http://wwws.warnerbros.co.jp/outrage2/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD21508/index.html

加瀬君は今作ではキャンキャン吠えるしょうもない器の小さいヤツでしたが『ライク・サムワン・イン・ラブ』『海炭市叙景』では全然ちがう、怖いヤツをちゃんと演じてる。うまいのですよな。あと『海炭市叙景』はとにかくオススメであります。