手に汗握れ!『アルゴ』

OPのイラストや当時のニュース映像を使った政治状況や世界状況のサクサクとした説明に、スタイリッシュやのう、と思いつつ…でも、これものちの伏線なんですよね。後にニセ映画をでっちあげるのに、このときのイラストの画調と同じものが出てくる。
イランの政治に石油の利権のために介入したアメリカがその報いを受ける。しかしそのとばっちりは、結局、政治のトップと関係の無い/薄いけれど、国籍が「アメリカ人」である者らにいくわけで。そうして、そのとばっちりを受けた者らを贖罪の心持ちもあってか、命を賭して救うことに身を投じるベン・アフレック演じるCIA工作員のトニー・メンデス。後半、ベンアフがイランに潜入してからの息を持つかせぬスリル満点の展開は、もうドキドキもんで、これは映画のエンタテイメント性が横溢してて最高でしたよ。最高最高。でも、このスリリリングなサスペンスのためには、前半の種まきが重要で、ここも大変おもしろかったなぁ。
地道に根回し、工作員も大変だなぁ。予算もあるだろうし、企画書作成、上を説得…って、普通の会社員と変わらぬやん。頑張れベンアフ。華やかだけど、ハリボテなところもあって、裏ではハッタリと内実の伴わない切った張ったのショウビズ界を華麗に波乗りし、駆け引きするハリウッド人種のアラン・アーキンジョン・グッドマンが最高。この世界に営業マン&プログラマ&事務員…それらの役割を一手に引き受けるベンアフがやってきて悪戦苦闘、根回し根回し、ときには演技。そうしてプレゼン→コンペを勝ち抜いて、いよいよプロジェクトが動き出す!
かと思えば、事なかれ主義だか保守的な輩(失敗したとき、これじゃマズイじゃん、って)が、かけたハシゴを下ろす。そこを自分を信じてつっぱしるベンアフ!プロジェクトを失敗させられないと走り回る上司!ここもスリリングである。大使館員たちを逃がすために映画スタッフに化けさせ、徹底的に仕込み、練習させるベンアフ。不安や命の危険に怯えながらもこの機会に賭けるしかない、と必死の大使館員たち。ロケハンのために街中に出る→デモの人々に車がドンドン叩かれる→(カットバック)隠れ家に自警団がやってくる→ロケハン中に街中で怒るおじいさんに絡まれる→(カットバック)自警団にウソを突き通すお手伝いさん→なんとか無事家に戻る→シュレッダーで裁断された写真が復元されていく→…ベタだけどドキドキさせる確実な演出にベンアフの手腕を観た気持ち。ラストまで駆け抜け、飛行機のなかで歓喜の声をあげるところは、素直にやった!と歓喜を共有しつつも、どこか複雑な気持ちになる。一部の人はこうやって逃げ出せるが、逃げ出せず散った命も数多あったろう。ウソをついたお手伝いさんはイラクに逃げるも、イラクも結局アメリカの都合で戦争になるわけだし。
でも、いろいろあっても、この映画は最高です。アメリカ万歳映画ではない。きちんとイラン革命イラク戦争を経た後の“現代”の世界からの客観的な視点を持った映画になっている。個人として職務=運命を負って、生き抜くベンアフのその重い職務なり運命の中に見出そうとする希望や誠実さを感じるというのもあるし、映画を扱う映画ながら、衒いがなくて、素直に映画をたたえる映画になっている。ちなみに日本で3館しかないフィルム上映館で観られたのも、さらにラッキーでありました。70年代感を再現した今作にsuitableな環境であっただろうな(感慨)。
『アルゴ』(2012/アメリカ)監督:ベン・アフレック 出演:ベン・アフレックアラン・アーキンジョン・グッドマンブライアン・クランストン、スクート・マクネイリー、クレア・デュヴァルほか
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