『黄金を抱いて翔べ』

地元映画。見慣れた風景が出てくるだけでアガるなぁ。関西弁については、桐谷君だけが担うことになってて、彼は大阪出身だからそれは大丈夫なんだけどアイスコーヒーをレイコーっていうのとか、あらかさますぎるチンピラとか、どうやねん…と思ったけど、そのおかげでわかった。そういえば携帯電話が出てこないし、西田敏行が抱えてる携帯ラジオも黒くてゴツイやつだし、舞台立ては現代っぽいけど、中身/ソフト的には作品発表当時の1990年(平成2年)ごろの空気感ということか、と。今ならセキュリティももっと堅牢だろうし(指紋認証とか網膜認証とか)、強奪計画練るにしても、ネットとかハッキングの技術も必要だよねぇ。あんな簡単な地図で行けるわけないわ。だから、ロケーションも昭和がかった店構えのところ選んだんだな、と。神戸もロケ地で選ばれてるところは、アウトレイジにも出てきたような古い建物だったりするのな。西元町あたりの建物とか。吹田のアパートにしても昭和っぽかった。そういう現代と昭和っぽい内実の折衷が、映画内のすごい不思議な空気感の基調になってるんだな、と。
原作未読だけども、おそらく長い原作のたくさんの要素を2時間ほどにおさめるのにぶった切って、再構成して、ぎゅうぎゅうに詰め込んだんだろうね、とあからさまに感じた。きっと小説だとバックグラウンドをたっぷり語って、文字面だからこそ読者の脳内にイマジネーションをもくもくと湧き立たせて破綻ないだろうところが、短い尺の中に要素で織り込まれると、それはムリがあるかねぇ、とか、、いろいろ思うところはある。黄金関係の爆破やらサヨクやらスパイやら強奪の計画とかツールとか。登場人物同士の因果の糸の絡み方やら妻夫木くんがかなり万能すぎるところとかの、キャラ設定にしてもね。
それでも、映画としてすごい魅力的なところもたっぷりあるんですよね。いびつだから魅力的なのかもしれない。出色なのは浅野忠信。角刈り。妻との性交の場面。暴力。黄金への欲求。虚勢とプライド。あとは、青木崇高の本当に本当にすばらしい演技。妻夫木君演じる幸田のモモへの思いをさりげなく表現する演出(頭をクシャっとかき乱して親愛の情)。舞鶴沖へ逃げる船中からみる波頭。泥臭い男どもの汗臭い欲求。後のない人生の一発逆転を賭けるのは、燃えてしまうような紙じゃなく金ピカの黄金じゃなければならない、絶対に。や、今なら電子の世界で金を動かすことになるだろうよ。『ダークナイト・ライジング』みたいにね。ケドそのネタじゃぁ井筒映画にはならぬよな。
妻夫木君は死に場所を探してた。自分がどこから来たかよくわからない、父親がわからぬ子どもだった妻夫木くん。彼は帰れる場所を探してたんだ。そうして、自分の負ったぬぐいきれない罪の意識にさいなまれて生きてきたんだろうか。自分の母と通じている神父を困らせるため、教会に火を放った。その罪を自分のかわりにかぶった神父…追われるように町を去るしかなかった母と自分。この世界のどこにも居場所がないように感じてたからこそのあの世捨て人感なんでしょう。居場所の無い、どこにもぶつけようのない焦燥を抱えた主人公のやけっぱちの大逆転をはかるような大それた計画…それが思いもよらぬ「帰れる場所」にたどり着くことにもなるとはね。彼はあんな最期をむかえたけれど、後悔はなかったろうよ。誰はばかりなく存分に泣ける、帰りたかった場所を見つけたんだろうからね。そんな男のロマン映画であったよ。
黄金を抱いて翔べ(2012/日本)監督:井筒和幸 出演:妻夫木聡浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平チャンミン西田敏行青木崇高中村ゆり田口トモロヲ鶴見辰吾
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