未体験ゾーンの映画たち2013:今年推したい作品暫定ベスト『ザ・ウォーター・ウォー』

これは面白かったし、かなりズシンときた。映画製作の裏側と撮られる側の関係性、ボリビアの水戦争/西欧の大企業が如何にボリビアのような“第三世界”をグローバリズムにおいて食い物にしようとするか、そして映画内映画で語られるコロンブスによる大陸の“発見”=神の名による“侵攻/侵略”のはじまりとそれに抗する先住民や、“先住民もわれわれと同じ人間として尊重すべきだ”と声を上げるスペイン人神父らの物語という現実/フィクションの関係性がダイナミックに相互作用しつつクライマックスをむかえる物語。
ボリビア人たちエキストラ役の顔や演技もいいし、ボリビアの街並みで繰り広げられる戦争のような光景もすごいリアリティです。しかもランタイム104分とギュッと濃縮されて詰まっている。すっかり映画に惹きこまれて一体どうなるんだ、とドキドキしつつ見入ってました。社会性や政治性を持たせつつエンタテイメントとしてものすごく充実している。映画内映画をそれだけで観たい!と思わせるほどの出来であることは、今作のクオリティが高い証拠だよ。なにより印象的なのは現地の水戦争のリーダーで、映画内映画の重要な役を演じたダニエル(フアン・カルロス・アジュビリ)の存在感だけど、映画プロデューサーを演じたルイス・トサルと監督役のガエル・ガルシア・ベルナルも素晴らしい。劇中のキャラクターはみんな“完全なる悪人”ではないけど“完璧な善人”でもない(当たり前)。ただ、それら多様さを内包した人間がそれぞれに、ある種の極限の状態で、“自分は倫理的にどうふるまうべきか”突きつけられる瞬間が訪れる、その時取る行動は、その後の生き方を変えてしまうかもしれない、苦悩の末に行う選択…その描き方もいい。
そして最初に伏線とも気づかせないほどにさりげなく布石されていた「現地語で水は?」「ヤク」というレストランでの軽い会話が効いてくるあのラストも秀逸。水戦争のリーダー的立場だった彼からの贈り物―その包装を解くとあらわれたのは小さな瓶につめられた無色透明な液体。思わずつぶやく…「ヤク」。この世で一番大切でなくては生きていけないもの。それを彼はわが娘の命の恩人にプレゼントしたのよな…。そしてこのありふれた透明な液体のために人が死に内乱状態にまで陥ったとは…「ヤク」とつぶやく言葉の重さが最初と最後で全然違うのよな。
劇中「英語で撮れば、もっと出資があって予算が十分なのに」というプロデューサーの言葉に、ガエル演じる監督が「それじゃあ意味がない」的なことをいう場面があったけど、そういう意味でもスペイン語で撮られた今作の意義があるのよな。ある種のカウンターなのでしょう。何重もの意味を内包した構造。
ただ、惜しむらくは、画質。家のDVDで観たほうがまだいい画質だったかもしれぬ…ドットが粗かったよ!
『ザ・ウォーター・ウォー』(2010/スペイン、フランス、メキシコ)監督:イシャー・ボライン 出演:ルイス・トサル、ガエル・ガルシア・ベルナル、エンマ・スアレス
http://www.eventherainmovie.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD23405/index.html