最近観たおもしろダメ男映画(その2)『二重生活』『やさしい人』

『二重生活』は中国のネット掲示板の書き込みにインスパイアされてお話が作られたとのこと。なるほどそういわれれば、四角関係なんて題材は小町案件のような気もする。さて映画です。妻がいるのに若い女子大生とも浮気してるダメな優男。実は別に愛人もいて、しかもその愛人にも子どもまで産ませてる。誰にもなんにもバレずにうまくやってると思っている*1浅はかなダメ男は愛人宅にも定期的に通い、こどもにも「パパ」と呼ばせてる。しかし、愛人は男の妻にママ友として近づいていく、そして愛人はとっくに若い女子大生との浮気も察知し、妻にもその女子大生との逢瀬を目撃させるのであります…。妻と愛人までおりながら、若い女にも手を出す…これ自分にはよくわからないんだよな。だって、時間のやりくりして、バレないようにするにしても妻と愛人だけで十分リスキーだろうに。なぜそこにもうひとり足して3人にする?性欲の問題?同じ女とばかりだと飽きる?うーん、よくわからん。体力有り余ってるのかなんなのか。…と思ってたら文字として書くのも不愉快な某サブカル界隈の人が愛人がたくさんおったとかおらんとかの(一部での)騒動。世の中には一定数そういう輩がいるってことだよな、と。こんな最低ダメ男のために3人の女性が振り回され、うち一人は死んでしまう、その死の謎*2が一つの映画の軸。妻と愛人に追い詰められて、女子大生は高速道路に転落し、車に轢かれてしまう。警察も死因を自動車による轢死とし、女子大生の母は車を運転していた若い男の父*3から高額の慰謝料と高級アパートの部屋を得ることができる。一方、妻も夫に見切りをつけて共同経営の会社から夫を切り離婚、愛人もやっと本妻的地位を得ることができる…あぁ、人ひとりの命の犠牲を経て、事態は打算や金でなんとか丸く収まってしまうのかな、という流れになる。しかし、映画の最後、女子大生の母は娘が亡くなった現場を訪ね、弔う。そうするとふぅっとカメラが移動して、まるでそこにいるかのように亡き女子大生が映る…ふぉぉ、この黒沢清的実存はちょっと怖かったよ。母が娘の死を悼み、娘がいなくなって痛切にさびしい、と思う気持ちがあるかぎり、きっといつか女子大生の真の死の原因を解き明かし、妻や愛人、そしてすべての元凶である男の犯した罪がやがて暴かれるのではないかと予感させるラスト。人が人を思う(愛おしく思う、恋する、執着する)ということは、金や論理でカタがつけられないことなんだな、と感じた。そして人(今作における妻や愛人)の思いが暴発し、タガが外れてしまう、そういう瞬間こそが映画になる、とロウ・イエは思ってるように感じました。女の思いの強さに比して、今作では男の空虚さが際立ったな。男は強い執着もなにもないんだよね、ただ、流されてるだけ。空虚な中心である男の周りにいる女の思いや執着こそが今作ではドラマを創り出していくのです。カメラワークも独特で、自然光のような撮影もうつくしい。夜や雨のシーンも忘れがたい印象を残す作品。ロウ・イエにはこれからも大陸でどんどん作品を撮ってほしいな。
『二重生活』

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ついで、一瞬味わった恋愛的時間への執着ゆえおかしくなる中年ダメ男が主人公の映画『やさしい人』。『女っ気なし』『遭難者』と同じ監督×主演とあらば、と映画館へ。今作のダメっぷりも最高です。女性を口説くために必死すぎるマクシム。彼女の気を惹こうと必死におもしろダンスする彼を見つめる観客の自分は微苦笑…でも憎めない、どっか可愛らしい。や、でも、それは映画として観てるからです、現実だったら微苦笑だけでしょう、はい。しかし、あっさりとフラれ、若くてぴちぴちした元彼と元鞘におさまる彼女。別れを告げるそっけないメールをみて、荒れに荒れ、クローゼットを破壊し、ベッドにふて寝して声をあげて泣く中年おっさん、そしてその息子をなぐさめにくる老いた父。最高だな、映画として観る分には。で、マクシムは彼女への執着ゆえストーカー的行動に走ってしまうのですが、元彼の写真をインターネットでさがして意味なくやたら拡大していく何気ないシーンに「ギヨーム・ブラック、これやったことあるだろ!」と思いましたね。こういう何気ないどうでもよいような行動の描写にグッときます、なんだかものすごいリアリティでまるで人の部屋を覗いてるような気持ちになる。まったく連絡をとれなくなった彼女と話したくて、犯罪スレスレ…というか犯罪的行動にまでついに至ってしまうマクシム。一度あじわった“自分を恋人として扱ってくれた甘い時間”はもう、戻らないだろうと分かってるだろうに、どうしてそんな犯罪を?…単に別れを告げられただけなら時間がマクシムを癒しただろうけど、別れた理由が元鞘に戻るため、ということだから、心の混乱が激しすぎて、元彼こそがすべての原因だとして攻撃対象としてしまう。本当なら彼女を攻撃すべきかもしれないのにね。人をペドフィリア扱いするような男の元に戻るとは?あんな男最低野郎に違いないと思ってるようで。まぁ、実際のところ彼女は元彼を愛してるわけでも、マクシムを愛してるわけでもないんだよね。マクシムの行動によって彼女はそれを悟り、ちゃんと男に頼らないで次のステップに進もうという意志を目に宿してるから、後味結構さわやかなんだよな。マクシムにとってはまた“女っ気なし”な日常が戻るだけなんだけど、ある意味似たもの親子の恋愛=女性大好きお父さん*4との日常に戻るところの“元サヤ”感ったらないな。すわりがいいっていうか。現代のはずなのに(iPhoneの小物使いもうまい!)どこかなつかしい感レトロ感をたたえた画面も好きです。ダメ男はかわいいなぁ、映画で観る分には。
やさしい人

*1:男の人は本当にバレずにうまくやれると思ってるようだが、あらゆるところに痕跡が残りまくってて、その浮気の痕跡をすばやく察知する女性が多いと思います、本当に

*2:英題は「Mystery」

*3:成長著しい中国で成り上がったらしい会社経営をしている社長

*4:本筋に関係ないけどこのお父さんがマッケンローの昔のテニスの試合をネットで検索して、「今の時代はいいなー」と楽しんで観ているシーンがとてもすき