今夏の長距離踏破女性映画頂上決戦 『奇跡の2000マイル』『わたしに会うまでの1600キロ』

まずはミア・ワシコウスカ主演の『奇跡の2000マイル』
実話ベースであること、ミアちゃん主演であること、オーストラリア踏破らしい、というくらいの情報で観に行きました。これが期待以上にすばらしかった。
・自然がすばらしい 

中盤くらいまではサバンナ、というのかちょっとした草木は生えてるゾーンを行くのですが、「ハイ、ここまでサバンナ、ココからは砂漠」みたいなポイントがありまして。そのさまを表すのに空撮で大地を水平移動しながら撮るだけ。それですごい伝わっちゃうのですね。セリフって思い返すに少ないんだ。でも映像が雄弁に語るのです。また広大な水平線の向こうからやってくるのは、人?ラクダ?みたいな美しい撮影に『アラビアのロレンス』を思い起こす。
・動物がすばらしい 

相棒は犬のディギティ。この子がミア演じるロビンと心通いあったパートナーであることがひしひしと伝わるんだ。かわいいし頼れる。あとこの映画をみたらその印象も大分変わるかもしれないのがラクダ。いやー、去勢してないラクダって、すごいな!野良ラクダで発情してるやつは本当に凶暴で危険。遠い地点でまるで点のような大きさだったのがヨダレをまき散らしながらトットッと近づいてくる映像を観せられると、本当に生命の危険を感じるレベルでヤバいぞ、と思った。
・ヒロインがいい

ミアちゃん演じるロビンはなんのためにそんな旅をするのか、明確な目標や夢や自己実現、みたいなことを語らない。それがいいんだ。きっと彼女自身にも「○○のために、砂漠を横断しよう」ってのは語ることはできなかったんじゃないかな。言葉にした瞬間、物語が生まれてしまう。彼女はそういう物語化を避けようとしている。ただ、砂漠の生き物であるラクダ、ディギティとともに砂漠を横断したい!という思いがあるだけなんじゃないかと。もちろん、そんな過酷な旅をしようとするからには、彼女の人生におけるいろんな出来事や人間関係における煩わしさから離れたい、などということの集積から契機の芽がいろいろ芽吹いたってことなんだろうけど、それらのいくつもの芽吹きをひとつの物語(ストーリーライン)にするのはいかにも陳腐だ。この映画ではセリフで人生を語ることや意味付けすることが少ない。それがいかにも実話の、またロビンという女性のパーソナリティについてリアリティを感じさせてよかったな。あと、ミアちゃんの演技もすばらしくて、砂まみれで汚れて、下着だけの姿(そのパンツがまた砂まみれで汚い)で、でも個性的なファッションが素敵で、とても魅力的だった*1
エンドロール、予想通り実際のロビンさんの写真がでてくるのだけど、それをみるとやはり感動する。そしてミアちゃんの演技は実際の彼女に負けてないな!という思いもさらに強くなった。人生は簡単じゃない。旅も自然も過酷だ。道中出会う人もいい人ばかりじゃない*2けど、すばらしい人にも会える(アボリジニのエディ最高)、耐え難いほどの悲しみにも遭遇するが、信じられないほど美しい光景にも出会う。観ている自分も、そんなかなしみやうつくしさを体験できるような映画でした。

Inside Tracks: Robyn Davidson's Solo Journey Across the Outback

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続いてこちらも実話ベースの『わたしに会うまでの1600キロ』
原作では1995年に行ったトレイルなんだけど『奇跡の2000マイル』の1977年設定とあまり変わらないような印象をうけた。それは使われてる音楽のテイストが70年代っぽいからかな。そう、ホリーズの音楽が流れたり、スティーヴィー・レイ・ヴォーンの音楽を使ったり、あえて舞台の年代をすこし前にしてるような印象。しかしこの音楽の使われ方やチョイスがかっこよくてセンスいいんだ。主人公シェリルが、自分の“間違ってしまった人生”をトレイルの道中思い起こしつつ、生まれ変わろうとする、という回想形式の映画の見せ方としてうまいし、リース・ウィザースプーンも魂を込めた演技でよかった。
けど、この映画は“主人公が過酷なひとり旅をする理由”がすごくはっきりしている。主題がはっきりしているから、映画は最初から最後までつらぬく一本の軸があって安定しているし、回想がちょこちょこ入っても混乱せずとても整理されているので明快に理解できるし、ラストにいたって成長、変化した主人公の気持ちよさを共有し、カタルシスを得られる。でも、トレイルの途中途中でアメリカの超有名詩人の詩のフレーズを書いて「Frost & Cheryl」などと署名しているところに、なんだか自意識、というか自己演出、というかそういうものもちょっと感じてしまう。結局、著名な詩などから雰囲気のある言葉をチョイスしているようなところが、ドラマティックに映画化されているなぁ、と*3。そこでちょっと入り込めなかったかなぁ、ミアちゃんの映画を観たところだったからその対比が働いたんだろうな。でもとてもいい映画だし、ローラ・ダーン演じるお母さんが、もう、最高すぎて。演出もうまいし、アルパカ*4が現れるシーンもどこか幻想的ですごくよかった。そして、トレッキングシューズはREIのを買おう、と思いましたよ*5

わたしに会うまでの1600キロ

わたしに会うまでの1600キロ

*1:実際のロビンさんの写真をみると、かなり忠実に再現しているみたいですね

*2:というか観光客マジ最悪:自分も気をつけなぁ、と思った

*3:原作があるから原作どおりといわれればそれまでなんだけど

*4:だと思うけど違う動物かな?

*5:トレッキングシューズ買う機会がこののち訪れれば、の話ですが