こんな映画を観られるとは…What a lovely day!『Mad Max:Fury Road』
公開前は、そうまで期待もしていなかった。試写で観る機会をえて、普通のテンションででかけ、体験してしまって以降はふと気づくと脳内をあの色調で支配され、ニュークスやフュリオサ、マックスのイメージがちらつき、火炎放射ギターが脳内でギターをかきならす。家でPCに向かってると、ついJunkie XLのスコアを繰り返し聴き、予告やメイキングをyou tubeで検索しては観てしまう。一般公開されるとIMAXにでかける。そうしたら、また平日仕事しててもあの映画の色調のなかに浮かぶニュークスやフュリオサが(以下略
トゲトゲのヤマアラシ特攻車《BUZZARD EXCAVATOR》に縦横無尽に走りまくるイワオニ族のROCK RIDERS BIKE、そしていかなる状況でもギターをかき鳴らし続ける男の中の男が乗る舞台はDOOF WAGON。巨大砂嵐に巻き込まれる車両とその信じがたい美しさに圧倒され、観ている自分もニュークスにあわせたて叫びたくなる…「What a lovely day!」
沼地にはまる夜の場面の美しさ。武器将軍が目をやられて、包帯でぐるぐる巻きにして、そっからめちゃめちゃに撃ちまくりながら突進する際に鳴り響くヴェルディのレクイエム!
そして人食い男爵の乳首ピアス、そしてすべてのキャラの服装がぴたりとそれしかない、という感じ。マックスとフュリオサの格闘場面。ピストルを手にしたマックスが組み敷いたフュリオサの顔面のそばで連射する場面など、アクションがかっこよくてクール。ニュークスがかわいすぎてたまらない。イモータン・ジョーにいいとこ見せようとして、チェーンがひっかかってこける場面が本当に本当に最高すぎる!アクションや狂った車の爆走の中でも、フュリオサの痛みと怒り、マックスの苦しみ、ニュークスの悲哀、それらはセリフが少なくとも、痛いほど伝わる。
実際にイカれた車を改造しまくってつくりだした実在感。アクションも実際にやってるからこそ、神話的でフィクショナルな世界なのに、ものすごく説得力がある。ディテールの積み上げこそがキモなのだなぁと実感する。そして抑圧された者が権利を取り戻す、人間性を回復するという普遍的な物語がしっかり描かれている。その普遍的物語を彩る狂った車や人間の肉体のディテールがすばらしいから今作は自分の脳内を占拠してるんだと思う。気づいたらまた映画のあの色調に脳内が染められて…(以下略)
たとえば十年後、今作はもうド定番の傑作映画となってるだろう。十年後の若者が観ても面白いし、興奮するだろう。けど、その頃には映画の技術や表現はさらなる進化を遂げているだろうし、『MAD MAX:Fury Road』以後の表現もブラッシュアップされていくだろう*1。未来の若者が観たとき、今作を「名作だけど古い、クラシック」な映画に感じるかもしれないと思うし、そうなるのは世の理だと思う*2。だから自分はいま、この時代にこれを体験できたことにとても興奮しているんだろう。“観る”じゃなく“体験”する、というのがぴったりなんだ。生きていて、歳を重ねて、既知がふえていくなかで、こんなに夢中になって興奮できる体験ができたことがしあわせだな、と思った。あぁ、本当にWhat a lovely movie!ジョージ・ミラー監督に感謝したい気持ちだよ。
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ざっくり振り返る3月ごろにみた映画
とりあえず3月頃に観た映画、どんなのあったっけ。google calendarをみながらふりかえる。
ジョン・ファヴローの『シェフ!〜三ツ星フードトラック始めました〜』からスタート。これはよかった。twitterの使い方、見せ方も上手いしテンポよくザクザク進むし、何より食べ物が超美味そう、最高。
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アジアン映画祭で多忙の合間にも一般公開作も観に行った。『イミテーション・ゲーム』『博士と彼女のセオリー』前者は本当におもしろくて、カンバーバッチも彼のキャラにはまった役柄でよかったしキーラ・ナイトレイもすばらしかったな。キーラの発したセリフが印象的だった。ホーキング博士のは、文科省が推薦したくなるような感動物語的枠には到底おさまらないホーキングのホーキング力に目を見張る。あとはインド映画『女神は二度微笑む』イギリス映画の『おみおくりの作法』もみました。『おみおくりの作法』は『思秋期』で生理的嫌悪で直視できない役をやっていたエディ・マーサンが主役だったので観るのをためらいましたが(それくらいあの役は強烈だった)、観ました。まさにちょっといい小品、という感じなのですがラストに驚きましたね。いやはや。『女神は二度微笑む』はラスト、祭りのなかでサスペンスが繰り広げられる、というよくありがちな展開ですが、それまでの伏線もうまくておもしろかったです。しかし祭りのなかで犯人らが追跡劇を繰り広げる、って本当2時間ドラマにも良く出てきそうな感じの定番表現だなー、と思ってたら、ついこないだ観たマン氏の『ブラック・ハット』にもこの展開が出てきましてね…
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「連休はこう過ごした、2015年5月大阪神戸」
今週のお題「ゴールデンウィーク2015」にたまたま合う内容となります。日常の記録。
仕事はカレンダー通りのお休みとなるため、4月29日(水)祝日ののち、連休前の猛烈な詰め込み仕事を木、金とこなしてクタクタ状態で5月2日から連休突入となりました。とはいえ、あまりに仕事が片付いてない&このままでは連休明けしんどいな、ということで一日休日ボランティア出勤(代休措置とかなんも無いっす)しましたけどね。しかし、普段の週休二日では余裕がないので、たまの祝日は余裕があってうれしい。ということで連休はちょっと出かけたりもしました。
≪ある一日 天王寺動物園へ≫
新世界をめざして歩く
新世界をぶらぶら通る。むかし初めて友人ときたとき、串カツ屋に入ってみるも人がまばらで小奇麗ではなく、通りも閑散、すこし怖いようなところがあった。中島らも氏が「“新”がつくけど新しくない」と、大阪の“新世界”神戸の“新開地”を評してたけど、まさに昭和のまま時が止まってしまったかのようなところだった。でもいまは通天閣のふもとには大きなドラッグストアがあるし、串カツ屋さんもたくさん、行列もずらり、観光客向け土産物屋もたくさんで活況(連休のせいもあるだろうけど)。外国からの観光客も多くてにぎわっててよかった。とはいえ、変わらぬ映画館も。
そうして天王寺動物園へ。新世界のすぐそばですよ。(動物園入口から新世界のほうをながめてみた)
シロクマの赤ちゃんが生まれたのでそれが一番の目的。すくすく育って大きくなってたけどかわいい。
クマがいるエリアでマレーグマ発見。オーディエンスからの「なんかバランスおかしいねん」とのつっこみ。おじさんみたいなクマ。
暑い日で動物たちもぐったり。
爬虫類館も堪能。たのしい。
哀愁ただよう。
やったぁ!たこ焼きだよ!とテンションのあがるシロクマ親子。
あとは白雪姫が時報とともに出てくるのを見たりしました。左右に揺れる白雪姫の動きは完璧にマスターした。
《ある一日 神戸へ》
用事があって神戸へ。大阪よりずっと長く暮らしていた土地なので断然馴染みがあります。さんちかでやっていた催しものを観に行ってみた。インコアイスやぬいぐるみなど素敵な鳥グッズに物欲がたかぶりましたが、とりあえず置物一個だけ購入した。
その後パンを買いに久々にブランジェリー コム・シノワへ。神戸は本当に美味しいパン屋がたくさんある。自分のパン好きも神戸に長らく住んでたことに起因するのかも。安くて庶民的なケルンのパンが神戸に住んでたころの定番だったけど、この日は久々にコム・シノワへ。ここはイートインもある。そこまでお高くなくて美味しい。高くて美味いのは当たり前なので、普段使いできる価格帯でとても美味しいパンを供してくれるお店が大好きな自分的には、ここも大好きなお店なのです。
丸いフランスパン、そして左のパンはちょっと酸っぱいような味もするずっしり重みのあるパン。こういうパンが大好きで。
この日は南京町や栄町もすこしだけいった。栄町のいつも行く服屋を覗いて、南京町でぎょうざ大学元町店に行こうと思ったらすごい行列だった。お昼は適当にすませてしまった。元町商店街ではファミちゃんに遭遇できた。なんかシロクマづいてるな。
《ある一日 読書や映画など》
猫村さんでおなじみのほしよりこさんの『逢沢りく』よかったです。りくという女の子の、この世界に対しての居場所のないような感じ、うまく言葉にしようのない苛立ち、そういう有りようが繊細に描かれている。あと時ちゃんがかわいすぎる。
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ワッシュさんの企画に参加します。おっぱい映画ベスト10
お題があるとなんだか考える。ぷかぷかと思い浮かぶ。ワッシュさんの企画に乗っかって、おっぱいが印象的に思い出された映画をつらつらと。
1『さよなら渓谷』
真木よう子のおっぱいです。バストトップは映りませんが、横からのショットで見える横ちちのすごさに、映画観終わってすぐに同行者とあの横ちちについて語った記憶がある。映画の詳細は忘れても、あのショットだけは忘れない。
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エリザベス・オルセンのおっぱいです。まったく惜しげもなく脱ぎます。でも、屈んだときにTシャツから垣間見える谷間がすごいんだ。映画自体もおそろしくて大変好きです。
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池脇千鶴のおっぱいです。観た当時は衝撃だったな。清純派的なイメージで売り出してた感じはあったが、デビュー時からどこか女優魂感じさせる人だったので今作で脱いだときも意外ではなかったな。でもそのおっぱいがまったくセクシーじゃない、そのことに衝撃をうけたんだった。
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アン・ハサウェイではなく、マリオン・コティヤールのおっぱいです。マリコテさんはすごいグラマラスで『君と歩く世界』でもかなり脱いでたけど、それよりはこちらをあげます。バストトップは映ってなかったと思うけど*1、あまりのグラマーっぷりに観終わって「マリコテのおっぱいすごかったねぇ」と話した記憶がある、それくらい印象的。
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綾瀬はるかのおっぱいです。というかこれ、ちゃんと観てないのだけど、公開当時観た人が「綾瀬はるかのおっぱいが見どころだった」と言ってたのでTVでやったときチラ見して、はるかさんが走ってるとき揺れてる胸に「あぁ、これが見どころか、なるほど」と思ったんでした。
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いわずとしれたクリスティーナ・リッチのおっぱい。とにかくかわいい、そして胸でっかいよ*2。ボーリング場でのタップシーンがとりわけ忘れがたい。
7『空気人形』
ペ・ドゥナのおっぱい。朝日をあびる裸のペ・ドゥナの自然光に照らされたうつくしさな。監督がペ・ドゥナを好きで好きでたまらないから、こう撮れたんだろうな。エロくはない。うつくしい。
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イ・ウヌのおっぱい。自分はしばらく今作の中のお母さんと愛人を演じる女優が同じだって気付かなかったんですが、脱いだときのおっぱいの形がいっしょだったので「あ、これ同じ人が演じてるんだ」と気づきました。どんなに動こうがまったく形の崩れないお椀のかたちのまんまるおっぱい。
9『極道の妻たち』
かたせ梨乃のおっぱいです。むかしTVで放映してたけど、いまではこんなの地上波で流すって考えられない。五社英雄監督の作品は子どもの頃にみたらすごいインパクトを残すよな、ということで。
10『八日目の蝉』
今作にバストトップは出てきません。周到にかくされたバストトップ…女優ってそれをそんな死守するもんなのか。うむむ…と思ったある意味おっぱい映画。
以上、思いつくままにあげてみましたが、ふりかえるとバストトップの出ない映画のほうが印象的なんだな、と思った次第です。
グザヴィエ・ドラン『Mommy/マミー』を観た
昨年、『トム・アット・ザ・ファーム』を観に行った際に『Mommy』のポスターも展示してあって「早く観たい観たい!」と思って待ち望んだ4月25日、上映初日に映画館へ行きました。
テーマは「愛」と「希望」。主人公たちもそれを口にする。しかし「愛」や「希望」を軽々しく口にして語るには、あまりにも困難な現実が母ダイアン、息子スティーブ、隣人の女性カイラを押しつぶしそうになっているのが、観ていてヒリヒリするほどわかる。1:1の正方形の画面は人物/ポートレイトを切り取るのにすごい効果がある。彼ら三人の濃密な感情のぶつかりあい、愛情、やりきれなさ等々が生々しいほどに伝わる。母へ贈り物をしたのに、それを受け取らないことに、そして母が自分を盗人と疑っていることにスティーブは怒りを爆発させる*1。しかしそれは怒りのようでもあり、愛情の暴発のようでもあるし、悲しさの爆発でもあるようで、人間の複雑な*2感情の表現/演技に圧倒される。そしてスティーブの怒りを一身にうけ、それをなだめようと、いや受け止めようとしている母ダイアンにも圧倒される。感情を爆発させる息子に母は怯える、でも愛おしくてしようがないのも事実。そんな息子に対する複雑な感情、きっと彼女にも説明できない。愛とは説明できない、だから映像で、演技で、音楽で…総合芸術である「映画」で表現しているんだ。
1:1の正方形は狭い。だから観ている自分も濃密な彼らの世界のかなり近いところにいる感じがする。そのアスペクト比が崩れる瞬間がある。一度は曲のイントロを聴いた瞬間「こんな大ネタ…!」と口が空いてしまったけど、映像と曲の相乗効果に目を見開くこととなったoasisの『ワンダーウォール』が使われたシークエンス。ロングボードに乗ってまるで天使の羽を広げるよう音楽を聞きながら幸せそうに腕をひらくスティーブ。彼は母とカイラに見守られて自由に風を切り走る。自分のまえで広い世界がひらけていくような感覚。そうしてスティーブが画面を押し広げる!狡猾といわばそうかもしれない。けれど、もうこの瞬間の爽快さ、気持ちよさがたまらない。
そしてもう一度、1:1アスペクト比が崩れる瞬間がある。ダイアンがスティーブを強制入院させる直前のショートトリップに出かける場面。このシークエンスの美しさと悲しさともう、いろいろの感情がない交ぜになった「説明できない」感じ。とにかく美しい。映画全体に色彩が凄まじく美しいのだけど、このシークエンスは特別だ。あり得ないだろうけど、ありうるかもしれない未来のスティーブ。きらきらと輝くこのシークエンスに続くのは、クリーンに漂白された空間=病院*3からきた看護師たちに拘束されるスティーブだ。このギャップ。
カイラは結局なにに傷ついているのかわからないままだ。おそれく家族関係(夫や娘)がふかく関わっているのだろうが、それは明かされない。スティーブたちとの交流によりすこし「よくなる変化」の予感を感じさせたのに、スティーブの強制入院に加担した罪の意識からか、カイラの状態はふたたび映画冒頭の頃に逆戻りしてしまっている。彼女はふたたび「殻の中」に入ってしまったけれど、ダイアンたちとの交流を経て、「自分はなにがあっても家族を捨てない」という態度を強固に貫こうとする自分をみつける。それはカイラにとって幸せな選択ではないかもしれない、カイラはつぶれてしまうかもしれない、でも彼女はそうするしかないんだ。それが彼女の「愛」。
ダイアンはスティーブを受け入れ切れなかった自分を責めているかのようだ。カイラから言われた言葉*4が彼女を揺さぶる。でも彼女は前をむいている。絶対に負けない。過去はくそったれ、未来だけが前に開けているんだから。希望はある、きっと。ラスト、スティーブが走り出すとき、拘束衣を脱がされた彼は、やっと天使の羽をひろげられる、大きく腕を振り、そして走り出す、きっと希望はある。
本当になんだかうまく説明できない、でもこの映画が本当に好きになってしまった。ドランの今のところ一番の傑作だと思う。どうして25歳でこれが撮れるのか…今作では出演せず、監督に徹しているのに、パンフの表紙や中身もドランだらけなのもしようがないな。それくらいグザヴィエ・ドランという存在自体が魅力的だ。音楽の使い方がこれまでのどの作品も素晴らしいが、今作も本当に本当にすばらしい。クールだし、かっこいいし、的確だ。何度も何度も観たくなる。ファッションも色彩設計も素晴らしい。母ダイアンの服やジャラジャラいっぱいぶらさげたキーホルダーの感じとか…、ダイアンにはこれしかない!というコーディネートっぷり。これらの作法が登場人物すべてに行き届いている。あぁ、とにかくかっこいいんだ、でも、うわべのかっこよさだけじゃないこの魅力はなんなんだ。次は彼が出演してる『エレファント・ソング』が6月公開。早く観たい観たい!
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怪物の助産師『セッション』
今年度アカデミー賞に複数ノミネート(助演男優は受賞)したということで話題だった『セッション』観てきました。今作も予告での引きがつよかった。音楽映画、強烈な“しごき”映画、そして、「ラスト9分19秒の衝撃」と宣伝でもうたっていて、こういう惹き文句をみると「ラストで師弟の猛烈なしごきの末に、すごいカタルシスを得られるような演奏があるんだろうな」と予想してしまうだけに、知らずに観るほうが衝撃があってよかろうに、と思ってしまうのだけど、今作はこの宣伝によってもたらされる期待値ハードル上げ行為にもかかわらずその期待を裏切られなかった。
ただ、J.K.シモンズ演じるフレッチャーの行為はまったく“良きもの”としては描かれていない。人を徹底的に精神的に追い詰め、時に理不尽としかいいようのない仕打ちをする。これは人をつぶしかねない行為だ。現に彼の猛烈な特訓のすえなんとか一流のジャズバンドにはいった弟子も鬱で命を絶ってしまったことが描かれている。フレッチャーの教えを受けている最中ではなく、学院を卒業し、何年も経った後での死だからフレッチャーが直接の原因ではないかもしれないけれど、あきらかに一因であるだろう。フレッチャーは容赦ない。人はこの世界に足跡や爪痕をのこすことなく死んでいく。でも傑出した一握りは不世出の才能をたたえられ、語り継がれる伝説となる。フレッチャーはそういう存在を育てたかった。ある種の人にあらざる様な存在…“怪物*1”を産みだす助産師になりたかった。そのために手段は択ばない。自殺した愛弟子も一流にはなったかもしれないけど、“普通の一流どまり”の存在だった。フレッチャーは中に怪物がいる厚さ10センチくらいありそうな鋼鉄の繭を羽化させたかった。繭を育て、中から怪物を取り出したかった。しかし、そんな繭破れるはずもないわけで。…だけど、観客はこの映画のラストで、その鋼鉄の繭を内側から素手で突破し、怪物が羽化する瞬間を目撃することとなる。だから昂る。フレッチャーは学院で生徒に言い続けてた。「Not my tempo!」おれのテンポじゃない!おれの合図で演奏しろ!と。彼の中にある理想形を完成させるような音楽を求めてた。でもアンドリューの演奏はあきらかにフレッチャーのテンポじゃない。もとからある理想形なんてふっとばす次元のテンポ。フレッチャーも聴いたことも体感したこともないテンポが彼を高揚させる。繭はフレッチャーがヒビを入れたけど、自力で羽化した。だからフレッチャーの予想を超えたテンポが彼を驚かせることになるわけで。
この世に怪物を産みだすには、こういう苛烈な体験が必要なこともある。それは奇跡的瞬間だ。そういう瞬間をラストまで溜めに溜めて、爆発させて、カタルシスを感じさせる映画はすごいと思った。映画だからこういことを描ける。しかし、善悪でいえば、これは決して「肯定できる善」ではないと思う。善悪を超えて圧倒的なものを見せられると、それはもうしようがないな、と思わせられてしまうわけで、それは映画のもつ力だな、と。アンドリューも人としてはダメな奴だよ。いとこが大学フットボールで活躍したと聞かされても「三流大学だろ」とけなし、成功に足手まといだ、とガールフレンドをこっぴどく傷つける高慢でうぬぼれやで勘違い野郎だ。でも、アンドリューが音楽に心酔し、音楽だけが彼に生きる理由を感じさせていることに嘘はない。だから彼が音楽に必死でしがみつみ、取組み、フレッチャーというこれまた人としてはダメだが、音楽に関してだけは特異な愛を持っている人間と出会い、曲折を経て、強烈な反発や呼応と葛藤のすえに、ついにはアンドリューはネクストレベルに到達したわけで。誰でもができるわけじゃない、マネするな危険、な行為なんだよこれは。でも人は「普通」の自分にはありえないような特異な才能が描かれた特異な映画を、こういう「普通じゃない」人生がうらやましいような、でも自分ではこれは絶対無理だな、と思いつつ観るんだよな。きっとこの先も彼らの道は平坦ではないよ。だって音楽家としては一皮むけたとしても、人間としてどうかは、また別じゃん(優れたミュージシャンが人間的にも素晴らしいかどうかはまた別で、これは数多ある伝説的ミュージシャンの伝説や逸話からも知られるところではないかと)。
種類は全然異なるけど“クライマックスの強烈なカタルシス”という点で、おかま掘られたり、いろいろ大変な思いを経て、ついにはあり得ないような計画を達成し、下水管を通って脱出して「おれは自由だ」と腕を広げるあの映画を思い起こしたりもしました。自分の実人生では一生得られることがないような高揚感を得られるような映画=フィクションの力って、やっぱりすごいな。
『セッション』(2014アメリカ)
http://session.gaga.ne.jp/
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『アメリカン・スナイパー』
緊迫したシークエンスを音楽なしで見せつける予告がガツンときた。公開されてすぐ足を運びました。
俳優として、監督しても長いキャリアを重ねてきたイーストウッドの映画をそんなに観ているわけでもない自分には、彼の作家性うんぬんと尤もらしく批評めいたことを書くことはできない。それでも、これまでに自分が観た範囲内で感じてきたことを思い起こしながら書いてみます。イーストウッド作品の描写について思うのは、的確な言いようではないのを承知でいうとどこか「唯物的」だな、と。そこにある事象をそのまま*1見せていて、ムダにアップにしたりスローにして劇伴ドーンとかけて「ここ感動するとこ」などと押し付けるような演出の偏りを感じない。『グラントリノ』にしても、主人公コワルスキーは自己犠牲を決意して最後の行動を起こすのだ!といくらでも劇的にできるのに、淡々と描写がすすんでいく。観ている自分は画面上に展開される淡々とした描写に、ドラマや意味を付加していきコワルスキーという男の思いや人生に“深さ”をどんどん読み取っていき心動かされていった。
さて『アメリカン・スナイパー』。主人公クリス・カイルは、父に「お前は番犬になるのだ」と教育され、アメリカという国を守るべく身を捧げるためシールズでの特訓に耐え、戦地に派兵され、そこでの過酷な体験に心が壊れ、それでも再生しようとする。その矢先に事故により命を失い、アメリカの英雄として埋葬される。左からも右からも「これはこっちの側の映画だからね!」と思われる要素があるなぁ、と思うのは先に書いたように、ある事象をフラットに見えるように撮ってるからじゃないかと。ひとりの射撃の上手な男が戦場でたくさん人を殺しました。という事実に「人とみればテロリストかを疑い、女子供まで殺すことについて彼は葛藤し、心が壊れ、トラウマを抱えつつ再生しようとしたが、やはり戦争でトラウマを負った者に殺された、戦争の酷さよ」と意味付けできる。「悪人/テロリストから、罪なき民間人や大切な仲間、ひいては自由や民主主義を守るために、やむなくテロリストを殺したカイルは英雄だ。英雄がこんな非情な死を遂げるとは…」と意味付けもできる。人は見たいものを見出したいんだから、両陣営から「この映画うちの陣地に入る映画だよ!」と主張されるのは当然でしょう。無音エンドロールにしても、それはどちらの意味にも捉えうるわけで。
で、「イーストウッドが言いたいことはこうだ。今までの彼の作品の系譜から明らかでしょうに。」と“作者のいいたいこと理論”で映画を読み解くのはある意味正しいけど、それだけが映画の観方じゃないだろうとも思う。監督が意図したとおりに意味を受け取らねばならないとしたら受験用国語の「作者がいいたいことを選択肢から選びなさい」という一個の正解だけを追求することと同じになってしまう。作者/作り手の意図を超え、なんらかの意味をまとってしまうことも創作物にはつきものでしょう。時代やその時々の政治的状況などにも左右されるようなこともあるだろう。
じゃあ自分はどう受け取ったのかというと。決してクリスをヒーローとしては撮っていないな、と思った。マッチョな考え方を肯定的に描いてはいない、と。…しかし、苛烈で悲劇的で激しい戦場のはずなのに*2、あまりに事が淡々と進んでいくように感じ、物足りなく感じたところがあった。それはブラッドリー・クーパーという俳優が主役を演じたことも絡んでるのかも。ブラッドリー・クーパーの役作りはすごくて、体のつくりこみ方や、演技も上手いんだけど、どうにも“優男”な甘さが漂ってしまうように感じ、『ハートロッカー』のジェレミー・レナーのような戦場でアイロニーにがんじがらめになってる男のタフさと繊細さのないまぜになった存在感みたいなものが感じられなかったな。ブラッドリー・クーパーの存在感はタフネスより繊細さのベクトルに向いてるのではないかと(個人の感想です)。実際のカイルの写真をみると、そんな優男感はないのだよな*3。
と、なんだかもやもやした感じ。砂嵐のシーンなどの迫力もすばらしく、いい映画だと思うけど、自分にとっては『ハートロッカー』は『ゼロ・ダーク・サーティ』のようなズシンとした重さや尾を引くようなイヤさ*4は残らない映画でした。でも、こうやってモヤモヤを書き起こそうという気持ちにさせる映画ということはやはり残る映画なのか(という無限ループ)
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*1:というのは厳密には不可能で、カメラ位置やカット割からも意味は生じる。ただ、あくまで演出過多になってない、きわめてフラットに撮ってるように感じさせると思う
*2:このあたり『ブラックホーク・ダウン』は描写が凄まじかったな
*3:映画は映画、現実とは異なるものですが
*4:悪い意味ではない