韓国映画における役者の顔面力『黒く濁る村』

先週の日曜日の午後、シネリーブル神戸に『黒く濁る村』を観にいきました。あっという間に上映が終わりそうな予感がして、上映開始2日目に観にいったのです。神戸はルミナリエという運営資金の関係で年々会期が短くなるイルミネーション祭りをやっており、“イルミネーション巡りバス旅行”等で少し遠いところからも神戸に来られる方が増えるし、大阪等の神戸近郊からも来神の方があり、結構街は混みあっている最中でした。またシネリーブル神戸の所在地はルミナリエ会場と隣接しており、入場待ちのながーい列や交通規制の真っ只中にさらされます。そんな、歳末感というかクリスマス感というか“ざわざわ+そわそわ+うきうき感”に満ちた土地で、韓国の田舎の因習的なしがらみにまみれた映画を一人観にいくというところに、なんとも言えない感慨を抱きつつ、シートに着いたところ客の入りは3割程度といったところでした。予想外だったのは、明らかに“韓流ファン”と思しきおばさま方グループが居たことです。ざわざわと話をしており、いざタイトルと字幕担当の名前が出ると「あ、やっぱり○○さんが字幕だわ」といった通な会話がなされる。誰かが登場する度に、ひそひそと会話がなされる。ことさら主役の方のファンだったようで登場したときは結構な音量で話がはじまり、お、やるな、おばさま方!と思いつつ“すこしはなれた所に座って本当によかった”と自分をなぐさめて観ておりました。
2時間40分ありましたが、飽きることなく観られました。宗教カルト的な要素と土地にまつわるお金、殺人や因縁、という横溝正史ぽい要素を感じました。なぜか人心を掴んでしまう目力のある神父とその能力を利用してやろうといううさんくさい刑事。そして数十年後、神父が亡くなり、長年音信不通だった息子が父の亡骸に会いに行く。そこから始まる謎の探究、父は実は殺されたのでは・・・つじつまとか物語のアレ気になるけどそこは浅くスルー?みたいな諸々ちょっと・・・というところはありましたが、ま、いいかと。このうろおぼえなブログでは自分の印象に残ったことを以下ちょっと書いてみます。
韓国映画を観るたびに、役者の顔がいいなぁ、と思うことが多いです。と同時に「この顔どっかで見た事あるな」という既視感みたいなものも感じます。それは、「ああ、いるいるこういう性格でこういう顔って」、という感覚です。きっとこれまで観てきた映画やTVドラマそして主に実生活の体験などに基づいて自分の中に培われ蓄積された“性格=キャラクター相関図鑑”にはまってるのだと思います。この映画のキャスティングについても、いちいち既視感にみまわれ、それは役と顔がはまっているということだよな、と感じました。主役の人はポスターでみるとオードリーの若林さんのようなのですが、正面からみるとほっぺたがぷっくりしている様が誰かににてるなーと思って、それが昨日ピンときました。東京03の人だわ、と(ほっぺただけの相似です。主人公のファンの方すみませんすみません)。あと、主役の人が頼りにする検察官は大泉洋さん、といったあんばいです。こういう既視感は同じアジア系の顔立ちということもあって、より自分の中にすぅっと入ってくるんですよ。
あと自分のコトは棚にあげてあえてこの表現を使いますと“不細工役者”がすばらしいのですよ。韓国映画に出てくるこの“不細工役者”の豊穣さは、すごいと思います。圧倒されます。ある意味類型的な見た目、それゆえ担保される存在感とリアリティ、とこの顔しかない!という決定的な感じ。『母なる証明』『息もできない』もそんな“不細工役者”がすごすぎて震えました。『黒く濁る村』でも、うさんくささプンプンの村長が使っている手下どもの顔がすばらしい!ちょっと頭が足りんのかな、という人、三白眼力炸裂の人、毛髪の薄さ絶妙のふとっちょの人。これら3人は、若いときと老人メイクの両方とも違和感なく見られました。(ただ、三白眼の人が老人なのに物凄い機敏な動きで主役の人を攻撃したときは、その動きのキレにびびりましたが)。その点、ちょっと残念だったのはカギとなる村長さんです。老けメイクが老けを意識しすぎて若干不自然でして。若いときの、変なわけ目の髪型とかイタイ感じのファッション、下品な感じの立ち居振る舞いはよかったのですが、老け役場面での額のひろいカツラとヒゲ、目の下のたるみなど、ちょっとわざとらしくて。そのわざとらしさ、及び老人ぽさを出そうとするあまりの若干の過剰さが、ちょっと志村けんぽく思えてきて。というのも、主人公が村長の秘密を探ろうとしている場面と、村長が主人公のいる場所に向かおうとする場面がカットバックになるところで、観客の韓流好きのおばさま方が、「あぁ、ほら、来ちゃうわよ、急いで」みたいなことを声に出して言うもんだから、「志村!うしろ!」ってフレーズつい思い出してね。すみません。しようもなくて。
※ちょっと結末に触れます
・・・ともあれ、顔面力って大事ですよね。顔面による類型がある程度どの人の頭のなかにもあるだろうから、その類型の逆をいくような人物設定をすると、ドンデン返しみたいな意表を突くのに効果的であったりする。たとえば、『黒く濁る村』でも鍵となる人物だった美人の雑貨屋さんね。薄幸そうなあの面立ちだから、ラストの彼女の表情が生きてくる、という。
※結末接触おわり
顔面力+絶妙の服飾スタイリングも素晴らしい韓国映画『息もできない』が元町映画館でセレクトされて近々上映されるようなので、また行ってみようと思っています。しかし、『黒く濁る村』の原題は『苔』だし、『息もできない』の原題は『ウンコバエ』って・・・、チケットカンターで『ウンコバエ』1枚って言うのか・・・やるな、韓国。

『黒く濁る村』カン・ウソク:監督 パク・ヘイル:主演
http://www.kinejun.jp/cinema/id/41368

すばらしい顔面力の3人

『息もできない』
http://www.kinejun.jp/cinema/id/40831 ヤン・イクチュン:監督、主演

元町映画館
http://www.motoei.com/