ソフィアの世界『SOMEWHERE』

この映画の公開前に、この映画についてのトークイベントがある、ってたまたま知ったんですよ。大阪へ出かけまして、時間になって席に座って待つ。しかしいつまで経っても始まらない。なんかDJブースみたいなものがあるな、と思ってたら誰かが曲をかけてる。待つ、始まらない、ひたすら待つ、始まらない…そこで気付いた「もしやこれDJタイム有りのイベント?」。DJ的なイベントをやる何かが企画したイベントの一環だったらしく、ひたすらDJ、ていうか曲がかかりつづける。で、そのブース辺りは知り合いらしき人たちで盛り上がったり曲に乗ったり、「わぁひさしぶり」とか「その曲なに?」的なサークル。でも残りの8割くらいの人たちはひたすらトークイベントが始まるのを待ってる。くたくたに疲れてきた。だって2時間もこんな時間が続いたんだものな。オシャレ?センスいい音楽でちょっとノってみたり?…イベントの段取りが分からない上、なんらインフォメーションも無いものだからイライラしてクラウドベリー・ジャム、ワナダイズ、スタカンとか、いかにもな選曲に腹が立ってくる、今の時代にこれって、ココだけ90年代のシブヤか!いや、音楽に罪は無いので完全なるやつあたりです、スタカン好きです、すみません。その後イベントは始まって、待ったわりにはあっという間に終わったのですが、トーク自体は得るところもあってよかったよ。ただ、どうにもそのサークル感と待たされた感がたまらなかったわけで、ちょっと後味悪かった(※個人の感想です)。
なんでこんなマクラを置いたかっていうと、こういうオシャレサークルにナチュラルボーンでクイーンの位置にいるのがソフィアだから。ソフィアがいるのは、もうまったく別格のセレブリティ世界ですけどね。マクラに書いたサークルは、ちっさいサークルで、でも自分はそれすらニガテっていうか、近寄れねぇ、こわいこわい、と思うわけです。それがソフィア世界のセレブ感、オシャレ感、ガーリー教教祖感…となると別格すぎて、もう、すごいなーと仰ぎ見る。そんなソフィアの世界で繰り広げられる出来事を、彼女のフィルタを通して観られるのが、彼女の映画を観る機会を得るということなのです(自分にとっては)。
最初のタイトルが出るまで、車をぶーんと走らせる、しばし、何周も。で、フェニックスの音楽がかかりタイトルが出る。完璧ですね。このタイトルでかかるのが、前述のトークで聞いたのですが、フェニックスの人(ソフィアのパートナー、かな)が、ヴェルサイユとパリを行き来する車に乗ってるときの感じの音楽として作ったとか(うろおぼえ)。そんな記憶もあって、映画冒頭を観ると、たしかにすばらしく車音楽なんですよ、びっくりした、はまってて。引き続き登場のポールダンサーズの双子ちゃんは、かわいいし、ダンスも上手だし、コスプレ(テニスプレーヤーコスプレ…)もよかった、というわけでツカミはOKです。そこからスティーブン・ドーフ演じるジョニーがホテル住まいしてる様が描かれるんですが、これが彼の表情からも分かるけれど、ものすごく空虚。彼がからっぽな感じを抱えてることが冒頭ですぐ分かる。そこに娘がきて、その存在により幸福とか満ちたような思いを味わったのち彼女が去って、またからっぽに戻る…って話だな、と想像がつく。それだけにラストで「オレはからっぽだ」か「なんもない」ということをセリフで言っちゃう(しかも泣きながら)のは、要らなかったな。
そんな空虚さを抱えた金持ちセレブリティの思いなんて、関係なさすぎる世界。あーほんと関係ない。ストーリーも複雑さはない。でもそれを埋める細部が瑞々しく、画がキレイで、惹かれる。この映画の最大ポイントはエル・ファニングガーリー最強時代を映像に押さえたことだと思います。はぁ、ためいきがでるほど。あと、シークエンスのタイミングが絶妙なんですよね。ジョニーが型取りのために石膏みたいのをべとべとに塗られてる場面があって、その模様をカメラでじーっと押さえるわけですが、その時間が絶妙なのですよ。長すぎず、でも微妙に長く、その有様をうまいことカットでつなぐ。センス、ってやつですか、これが。ポールダンサーズのくだりも、そう、うまいんだ。すこしおかしみを感じる空気感コミで映像にしちゃう。ジョニーのところにいつもの女の子じゃない男のマッサージ師がやってきて、あやしげな東洋風音楽をかけて、合掌し、おもむろに全裸になるくだりも秀逸でした、はい。あとはいわずもがなの音楽!サントラ出せば良いのに。トークイベントのとき梶野さんが言ってはったけれど、「フェニックスのPVみたいな箇所があった」っていうのには、納得。音楽のための映像か、映像のための音楽かというほどのはまりかた。
ロスト・イン・トランスレーション』とも同じテーマだなというのも思った。異国での孤独とか、外国語の環境での孤独とか、いとしい人はいるけど孤独とか、ホテルが舞台とか。あと、ソフィアは非英語圏に対してなんかの思いがあるよね。ちょっと、みくだしてる?いやいや彼女はそんな意識ぜんっぜんないよ。でも、どっかそんな感じに表現されちゃってるなぁ、というのも似てる。今作でイタリアに行った場面では『ロスト〜』のビル・マーレイのCM撮影現場のシーン思い出したよ。日本人として見ながら痛い気持ちになったあの場面。
それにしても画がきれい、どうしたらああやって撮れるのかな。あと、ジョニーは疲れて途中で寝たりするくせに、次々女と寝ようとするのはなぜだ。しんどいんじゃないの?飽きたりしない?ていうか、ひどいな。そうやって女も全然軽く扱っちゃうほど、空虚ってことか。写真撮影のとき女優と並ぶのにちっちゃい台に乗らなきゃならない微妙な背の低さなのに、モテモテで、でも空虚ってさー。

『SOMEWHERE』(2010/アメリカ)監督:ソフィア・コッポラ 出演:スティーブン・ドーフ、エル・ファニング
http://www.somewhere-movie.jp/index.html
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17724/index.html

フェニックスのアルバムを予習的にけっこう聴いてから行って、よかった。