『たまの映画』音楽を続けること、東京だからできること、一緒に歳をとること

音楽ドキュメントは『アンヴィル!』『極悪レミー』を観たけれど、『たまの映画』はまったく違うスタンスの音楽ドキュメントでした。レイトショーのKAVCで鑑賞。
アンヴィルモーターヘッドは、バンドです。カリスマというか、核となるメンバーがいて、その他のメンバーは多少入れ替わりがあっても、各パートの結集により“一つのバンド”という有機体を形成し続けてきたことが映画の柱になっているわけだけど、一方の「たま」は既に解散してるわけで、そこが大いなる違い。映画の中でも言われていたけど、「たま」はシンガーソングライターの集まりだった。みんな曲と詩を書きたい。書いた曲は書いた人がヴォーカルをとる方式(これはユニコーンとかもそうだったような気がする)。だからアンヴィルのように「俺たち離れたら、おしまいだよ〜、だから一緒にやろうぜ、わ〜ん*1」というように泣くことはないわけです。「たま」は一個人ずつやりたいことがあって、4人のメンバーが集まったときの相乗効果や化学反応はすごいものがあるけど、すこし亀裂が走ったりすれば、ばらばらになるは止められない。
ばらばらだった4人が集まって、バンドをはじめ、神のきまぐれか実力かなんだかわからないけど、突如爆発的に売れてしまう。音楽が“商売”であるフィールドに取り込まれる、リリース、パブリシティ、イロモノ的売られ方、搾取。そんな嵐のような売れ方で、最大瞬間風速が計測された後、世間的認知は落ち着き、ライト層ががっさり抜け落ちていき「たま、ってバンドちょっと前にいたよね」と言われるくらいのころあいに、メンバーが一人脱退する。残されたメンバーで継続するも結局4人いたからこそ実現していた化学反応は3人では起こらなくて、バンドである意味は薄らぎ、解散してしまう。口に糊することができるくらいの収入があればいい人たちだから、一時の熱狂的な時期を過ぎた現在もなんにも変わらないような風。好きなように歌を歌うことしかできないから、やりたいことをやり続けて今に至る。バブル的に売れた時期が間違いだったかのように、平静。
そんな平静に見える元「たま」のメンバーたちも、売れる前と売れた後で、同じはずはなくって、それぞれにいろいろ不安や変化はあっただろうけど、各々が一人ずつシンガーソングライターだった:歌いたい歌があった、っていうことが大きいと思う。その芯があるから、バンドを解散しても大丈夫。アンヴィルは、メンバーが互いに補完しあい、支えあって有機体としてのバンドを形成してるから、バンドっていう形態を保ち続ける必要がある。どっちがいいとか悪いとかではなくって、そういう色々の有り様があるんだな、ということを感じました。正直「たま」の音楽もそんなに知らないしあまり積極的に聴こうとは(昔も今も)思わない。ユニークでオリジナルなところは感じるし、劇中にながれるそれぞれのソロ曲も、たまにはっとさせられるけど、石川さんの曲とか訳わからんのも多い*2。でも、彼らはそれが、やりたいからやり続けてて、それを(自分とは違って)おもしろいと感じて聴きに集う人々もいる。
でも、彼らのそんなあり方も東京だから可能なのかな、っていうことも思った。いろいろの小さなライブハウスやカフェ的なところで定期的にライブをやってる元「たま」メンバーが映るけれど、それは自分の住んでいるような“地方都市”ではムリなんじゃないかな。人口もメディアもあらゆる場も集中しきった東京だから、彼らの音楽を受け入れる土壌や嗜好する人たちがいるんだろうけど、自分の住んでる土地ではきっとムリだわ。まして定期ライブとか…。
最後に。柳本さんはソロ活動されてるけど、この映画には出てきません。彼は撮影に応じなかった。彼はあの激動の時期をどう過ごして、どう感じたんだろう。きっとこの映画に登場した元「たま」メンバーとは違う感受性があったのかもしれない。過去に囚われるのがイヤなのか、なんなのか、それはわからない。彼の不在は、映画に“物足りなさ”と、“出演を拒否したということが意味する意味”を映画に与えている。彼はナイーヴなんだろうな、たぶん。あの熱に浮かされたようなバンドブームの頃、インディーバンドもあっという間に一部の界隈で人気になって、“商売”にされ、あっという間に消費され、飽きられたり、という時代。柳本さんはどう感じ、いまどう思ってるんだろう。それはほかの3人とは異なると思う、それはちょっと知りたかった。
いや、そう考えるとBUCK-TICKとかすごいな。有機体としてのバンドをやり続けてんの。固定ファンをがっちり掴み続けて、未だにオリコンの上位チャートにも入ったりするっていう、このCDの売れない時代に。や、ファンも一緒に歳をとる。だからCDを買う習慣づいた人々は、買い続けるってことだな。西野カナ的配信メインの方々は、永らく活動を継続するってのは、なかなか厳しいんでしょうかね。ちなみに自分も“カタチ”が欲しいタチなんで、基本CDで買いますけどね。…世代か。
音楽において、ファンも一緒に歳をとる、って大事な気がする。ライトな音楽ファンでしかない自分がえらそうに言えないけど、そういう音楽はきっと強いんじゃないかな。
『たまの映画』(2010/日本)監督:今泉力哉 
http://www.tamanoeiga.com/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD17235/index.html
 ※ふたりは今も一緒にやったりしてる。あと、知久さんの前歯…
《追記》
もすこし色んなアーティストの証言とかあれば…、というのは「たま」ファンじゃないから思ってしまうんでしょうかね。劇中は各々のソロライブの曲が多くて、元「たま」メンバーのファンの方にはたまらないと思います(逆に自分はちょっと間延びしたときもあったのでした、パスカルズと知久さんの最後のほうの曲はよかったです)。

*1:こんなセリフなかったけど、大体こんなイメージ

*2:個人の感想です