この恨み晴らさでおくべきか『ウーマン・イン・ブラック』

ゴシックホラーとして有名なので、タイトルだけは知ってました。舞台化もされてましたよね。その映画化の今作は、予想以上に端正な、というかクラシックなお化け屋敷ムービーでしたね。そしてまた*1イギリスの暗鬱な低い空の下…というロケーションなのです。満ち潮によって孤立化するという暗鬱な荒れ果てた邸宅。いかにも怪しいロケーション。
大概のホラーは主人公がなにかを背負っている。今作のラドクリフ演じるアーサーは、愛妻を失っている。それも愛するわが子の命と引き換えに。妻の遺してくれた子供を守ろうとするも、仕事はうまくたちゆかず、雇用主から与えられた最後のチャンスをものにすべく田舎町のいわくありげな屋敷にやってくる…退路を断たれた八方塞りというのがポイントで、そうじゃなきゃ、あんな屋敷行かないわな、と。その上、田舎町は封建的なんだかなんだか、よそ者に冷たいし何事か隠してるようだし非協力的だし…。
そして、出てくる女は、どこか気が違っておる。唯一暖かく迎えてくれた金持ちの家も奥方はどこかしらおかしいし、なにより問題の屋敷にも気が違った女が関係した悲劇が起こったらしい。このあたりがいかにも19世紀らしい。女のヒステリーとか精神不安定とか、スーパーナチュラルなものとのリンクとか。
お化けより、生きてる人間の方が怖いがな、という定番フレーズがありますが、どっちも怖いけどやっぱりお化けとは、話ができぬから怖いよ。お化けは生きてる人間の“念”の純粋な核だけが残ってるのが怖いわけで。今作でも「わが子を取り上げたあげく、事故死させるってどういうこと?」という恨みの念だけが濾過されたんだか蒸留されて純粋化されていて、それは対話によってわかりあうこともいやすこともできぬわけで、キシャー、という擬音とともに窓ガラスに映ったり、“叫び”みたいな顔して現れたり、ひたすらに「この恨みは晴らすことはできぬから、やつあたりして巻き込んでやる!」というのがこわい。だから、生きてる者の論理で、これがこうなってこうだから、こうすれば和解できるんじゃ?なんて論理は通じるわけもない。それにしても怖がらせ演出がうますぎるよ、黒衣の女は。
ラストは哀しいけれどある意味ハッピーエンド。でも、アーサーらを死に追いやっておいても、どこかハッピーエンドになってるみたいで、気にくわなさそうな黒衣の女は、絶対自分はお近づきになりたくない、と思わせられるくらいヤなお化けっぷりでしたよ。
『ウーマン・イン・ブラック』(2012/イギリス=カナダ=スウェーデン 監督:ジェームズ・ワトキンス 出演:ダニエル・ラドクリフキアラン・ハインズジャネット・マクティア、リズ・ホワイト
http://www.womaninblack.jp/
http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD22466/index.html

*1:たまたま自分がイギリス映画続きだっただけなんですが